第6話 逆様
平澤は物凄いスピードを維持したまま『苦の岩山』に突っ込んでいった。そして大小バラバラの岩なんて関係無く、そのままの勢いで断崖絶壁を登っていった。目にも留まらぬ速さである。
「南澤!そろそろこの黄金スニーカーにも慣れてきたわ。これがあれば絶対に小鬼ちゃんは追いつけないよ。てか南澤はよくついてこれるな」
そう言うと平澤はスピードを少し緩め、いつもの全力疾走の2倍速ぐらいに調整し、安定走行に入った。そのまま一気に『逆様公園』の中央に位置する『楕円のメインフィールド』の入口まで駆け上がっていく。
「進むぞ。南澤!ついて参れ!」
だが次の瞬間、スニーカーは輝きを失い、平澤は派手にずっこけた。15秒ほどの短い栄光が終了した。
「クっソ!いってぇ〜!!」
「どうやら鬼は撒けたようだ」
南澤は冷静にそう言った。結局『楕円のメインフィールド』までは到達することは叶わず、2人はその手前の『逆様の丘』まで来ていた。コンクリートでできたその丘は急斜面で、不安定な足場も多い。
「てか南澤。オマエは浮いているから分からんかも知らんが、ナニか変だぞ。さっきとのギャップかも知れんが足が重い。立っているだけでも強い重力を感じる」
「何となく分かるぞ平澤。景色も変だ」
2人の目の前にはこの先進んでいく『楕円のメインフィールド』の入口が見える。だがその手前のモニュメントが歪んでいるのだ。現実世界ではあり得ないほどに。また、さっきまでの青空も真っ赤になっており、そちらの景色も歪んでいる。
「なるほど。青空が真っ赤に。逆様か。ようやく異界染みてきたな〜南澤」
「平澤。アレ」
「あ」
南澤は眼鏡をかけており、両目で1.5の視力がある。そのギリギリのラインで、背後にいる等速に動く鬼を捉えたのだ。平澤もやや遅れてそれに気づいた。
「南澤。この状況で黄金スニーカー無しは最悪だ。万が一の時は頼む」
「平澤。気を強く持て。2人で行くんだ、この先に」
「おう」
そう言うと平澤は走り出した。当然に先ほどまでの超スピードはない。それどころか、異常な重力のせいでいつもより遅い。だが彼には考えがあった。
平澤は正面では無く、右に向かって走った。丘を越えるのではなく、引き返すことなく最短で丘から降りることを選択したのだ。いまは少しでも早くこの状況を打破しなくてはならない。
「いいぞ平澤!今はそれがベストだ!!」
2人は『もう1人の民家』と呼ばれるエリアに向かった。中は迷路のように入り組んでおり、鬼を撒くのにも最適だと考えたのだ。
「平澤。撒けたな」
「楽勝だよ。南澤」
そう言うと2人は建物の中で一休みした。天井を見上げるとキッチンやソファといった家具が配置されている。
「南澤。僕にはまだアートってものは理解できねーよ」
「私もだ。アレが逆様ってことしかわかんねーよ」
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