第5話 逸脱

 「お2人ともよく逃げられましたね。でもまだ終わってないですよ」


 「「、、、」」


 妖精の声に2人は沈黙で応えた。一方、エレベーターは下へ下へと降りていく。外は暗くて何も見えない。10秒ほどが経過したとき、ドアが開いた。再び視界を奪われる程の強く眩しい光と突風が彼らを包み込んだ。


 そして即座に視界を取り戻した。


 今度は2人が観たことのある、またしても別の公園にいた。


 「南澤!ここは」


 「ああ。間違いない。『逆様公園』だ」


 そう言うと2人は正面を眺めた。背後のエレベーターは既に跡形もなく消えていた。また相変わらず太陽は彼らの真上に位置している。『逆様公園』とは彼らの地元にある公園兼美術館のような施設のことだ。1990年代前半に、ある2名のデザイナーがモダンアートとして実現させた。1年前に2人は遊びに来たばかりである。


 「観ろよ南澤。『苦の岩山』だ」


 「くっ」


 2人の目の前には小高い岸壁があった。『苦の岩山』だ。それは即ち彼らは『逆様公園』の入口付近にいることを意味していた。大小バラバラの岩で構成された『苦の岩山』は、四つん這いで登らざるを得ない険しい岸壁だ。

 

 「懐かしいな平澤。ただ今回、私はこの足じゃ一緒に登りたくても登れないがなw」


 「はー。てかなんで異界とやらに来てまで『逆様公園』なんだよ!現実感ありすぎだろ。真逆さ〜ま〜に~落ちてhunger」


 「懐かしいな〜平澤。てか俺らまだその時生まれてねーだろ!」


 そう言うと2人は同時に声に出して、いつもどおり笑った。1年前に実際に現実世界の『逆様公園』に遊びに来たときと同じように。


 「まぁ南澤。想い出話は一旦その辺に置いといてだ。またあそこに桜の木が見えるぞ」

 

 「ああ。恐らくアノ小鬼もいるぞ。てか現実世界じゃ、あそこに桜の木なんかねーけどな」


 「その通りだ南澤。コイツはクセえっ〜!アヤシイにおいがプンプンするぜっ!明らかにこりゃあ罠だ」


 「んで平澤。どうする?恐らく私達が動いた瞬間にヤツも出てくる。目の前は断崖絶壁。逃げれるか?」


 「僕も同じことを考えていたよ。答えは分からん。一か八か、、、んんん!?」


 その時だった。平澤のスニーカーが黄金色に光り始めた。そして10秒ほど経過しても、その輝きを維持している。


 「平澤。どうだ?」


 「南澤。答えは分からん。なんかココロは晴れやかって感じだ。」


 「要らん情報だな。それはw」

 

 「すまない南澤。ちょっと動いてみるわ」


 そう言うと彼は物凄いスピードで前に走り出した。明らかに常軌を逸脱した動きだ。そしてそれに気づいた鬼も動き出した。前と同じタイプの鬼だ。


 「あああああ!!!南澤!!!足が止まんねえよ!!!」

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