第1話 いつもどおりの放課後

 2007年7月中旬 放課後

 「南澤!一緒に帰ろ〜!てかいつになったらその松葉杖取れんだ?」


 「平澤。いつもすまんな。あと1週間ぐらいかなー。てか部活はいいのかよ。県大会近いだろ?」


 「あ〜今日はいいよ。明日練習するから。まあどうせ勝てないけど」


 そう言うと平澤は教室のロッカーへ向かった。ロッカーから黒のエナメルバッグを取り出す。その中からラケットケースを出し、ロッカーにしまう。


 南澤は1ヶ月前に交通事故にあっていた。バスケの地区大会の日のことだ。試合に勝利し体育館からチャリで帰宅中、交差点で左折してきた車に巻き込まれた。右足の骨にヒビが入った程度で済んだが、松葉杖生活を余儀なくされた。そして彼は県大会への出場は不可能となった。


 2人は幼なじみで同級生であり家も近所だ。南澤の事故以降は、平澤が彼の荷物を代わりに持ち、一緒にゆっくり帰宅するのが放課後の日課になっていた。


 道中はいつも特にこれと言った話題はない。たわいのないことを話しながら同じ道を進むだけだ。30分程度である。いつもどおり過ぎて慣れてしまった放課後だが、今日はいつもと違った。


 「南澤!アノ空き家、電気付いてるぞ」


 「ホントだ。でも変だ。人がいる様子は無い」


 「行ってみよーぜ!もし人がいたら謝ればイイんだから!」


 「まぁ私が止めても行くだろうから別にいいよ」


 2人は迷うことなく玄関を押し開け、家に入った。たしかに人の気配はない。ただ全ての部屋の電気が付いていた。ドアが閉まっている部屋もあるが、僅かな隙間から灯りが漏れ出ている。そして彼らは気付いてしまった。1つだけ電気が付いていない部屋があることに。


 木製の最も古びたその部屋のドアは固く閉ざされている。ドアノブはある。恐らく他の部屋と同様に鍵はかかっていないのだろう。開けることは可能だ。

 

 「どうする〜南澤」


 「平澤。もしかしてここまで来て、ひよってんの?w」


 「んな訳あるか!」


 そう言うと平澤は両手で力強くドアノブを回した。壊れんばかりの勢いだ。そしてドアを開けた瞬間、視界を奪われる程の強く眩しい光と突風が2人を包み込んだ。


 「平澤。これは一体?」


 「分からん!でも先に謝っとくわ!許せ南澤!!」


 「まぁいいよ平澤。2人で行こうよ、どこまでも」


 「オウ!ここまで来たら僕たち一蓮托生だ!!」


 そう言うと2人は同時に声に出して笑い始めた。いつもどおりの放課後との強烈なギャップが、彼らの理性を吹き飛ばしたのである。


 そして次の瞬間、視界を取り戻した。


 そこは2人が観たこともない景色に囲まれた公園であった。

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