太陽のブレイバーズ
かずくん
太陽の旅立ち編
第1話 その名はサン
かつて――伝説の勇者が世界を救ったことから、人々も勇者の肩書を求める時代。
空は雲ひとつなく青く、紅葉の森で小動物たちが静かに走り回っていく。
そんな気持ちのいい天気の下で、少年は目の前の熊に対してワクワクした瞳を見せていた。
「あいつ美味そう……! 今晩のご飯は、決まりだな!」
草むらから飛び出し、少年――サンはついに姿を完全に現す。
オレンジ色の髪に生き生きとした緑の瞳。赤いシャツに白い短パン。額に装着した色あせた赤いハチマキが特徴的だ。
こちらに気付いた普通の動物とは違う存在――モンスター。通称シッコクグマはこちらの存在に気付くと、口からヨダレを垂らしながら間髪入れずに飛びかかる。
「ありゃ。お前、そんなに腹減ってたのかー……オイラもなんだよな!」
「グルルルル!」
サンは楽しい表情を見せ、戦いの姿勢を構える。両腕を天高く上げるシッコクグマがやる気満々だというのを知り、サンは右足を地面に強く叩きつけた。
「今晩は食わせろおおおお!」
サンが相手に向かって飛び出す。遠吠えを吐きながらシッコクグマも、右腕を振り下ろした。
強烈に思える熊の一撃。
食らったらひとたまりもないだろう。しかし、サンは微動だにせず左拳を握る。シッコクグマの真正面へ立ったまま、腹部めがけて正拳突きを放つ。
「はあっ!」
気合の入った一声と共に鳴り響く重低音の一撃。同時に、相手の体は大きく後ろに飛ばされ地面へ転がり落ちた。
シッコクグマはピクリと動かないまま、両手両足をバンザイさせて気絶している。サンは確認すると、思わず喜びを爆発させた。
「やったー! 今夜は豪華料理だ!」
高く跳び上がるサン。今までの狩りは養父の手伝いばかりだったが今日は違う。今回は自分ひとりだけの実力だけで成功させたのだ。
なぜ、今回の目的を達成させたのか。
サンは赤ん坊の頃、とある岩山に捨てられていた。そんな彼を救ってくれたのは心優しい穏やかな養父だ。怒ったところを見たことは一度もなく、村でも一番の強さを誇っている。そんな養父に恩返しするため、今回の出来事に至るのだった。
「よーし! さっそくこいつを持ち帰って、じーちゃんに見せてやるぞ」
シッコクグマを自身の体で背負い、自宅の方角を見つめる。すると、遠くから見慣れた姿が目に映り、サンに向かって手を振っている。
「サンー、何してるのー?」
こちらへ近づいてくる幼馴染――レーナ。彼女の姿を見て、サンは思わずニヤける。
紫色の肩まである髪型。白とピンクを基調とした可愛らしい服を着ている。
「レーナ! 見て、これ!」
背中を向け、シッコクグマを見せる。レーナは目を丸くして驚いていた。
「えっ……サン、これどうしたの!?」
「オイラが倒したんだ! 明日、じーちゃんの誕生日だからさ。今まで育ててくれたお礼にって思って晩御飯の材料にしようと思ったんだ! それより、レーナはどうしてここに?」
「うちのおじいちゃんが、シャンウィン様の家に泊まってきなさいって言ってくれてね。明日の誕生日のためにご馳走を作ろうと思ってたの!」
その事を聞いて、サンは思わず頬が緩んだ。
「そうだったんだな! だったら、このモンスターで今日の晩御飯を作ってくれよ! オイラ、レーナの手料理がまた食べたい!」
対してレーナは満面の笑みを見せた。
「任せて! 久しぶりに二人のため、私特製のスペシャル料理を作っちゃうんだから!」
「ほんと!? やったぁ! レーナの手料理が食べられるぞー!」
「そうと決まれば、さっそくシャンウィン様の所に帰ろうか。きっとサンがモンスターを倒したこと、びっくりするよ!」
既にサンはシッコクグマを背負って歩いている。胸のワクワクを抱えながら、目を輝かせるのだった。
「レーナ、早くおいでよ! へへっ、楽しみだなぁ」
「って、いつの間に!? しょうがないなぁ、ふふっ」
後ろでレーナが微笑んでいるが、サンは気にしない。今は家にいる育ての親がどんな反応を示すか楽しみでしょうがなかった。
こんな平和な日常が続くと思っていた。その日の事件が起きてから、サンは自身の夢を叶えるために決意する。
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