第15話 白銀のキス、凍らない愛
雪は街を静かに包み込み、町並みの輪郭を柔らかく曖昧にする。
そんな中、梨乃と真冬は雪道を歩いていた。
白銀の世界は、二人の心に寄り添うように、静かに降り積もる。
「……冷たいね」
梨乃が手袋越しに雪を握りながら、ふと微笑む。
「でも、不思議と温かい気持ちになる」
真冬は彼女の手をそっと取り、指先で雪を押しつぶすように握る。
手のひらから伝わる温もりが、二人の心をじんわりと包んだ。
「梨乃さん……」
真冬の声は柔らかく、しかし確かな意志を帯びていた。
「こうして一緒にいられる瞬間を、大切にしたい」
梨乃は少し恥ずかしそうに目を伏せ、頬を赤らめる。
雪が髪に積もり、白い息が空に溶けていく。
小さな手の触れ合いが、世界を二人だけのものに変えていった。
雪道の端にある木々の下、真冬は立ち止まり、梨乃を見つめた。
白い雪に映える彼女の瞳は、冬の光を映してきらきらと輝く。
「……大好きです、梨乃さん」
その言葉に、梨乃は小さく息を呑んだ。
雪が舞う中、二人の距離は自然と縮まる。
真冬がそっと唇を近づけ、梨乃の頬に触れる。
そして、静かな初キス——
雪の世界の中で、二人の心だけが確かに重なった。
その瞬間、世界の音は遠くに消え、二人の間に流れる空気だけが存在する。
手と手、肩と肩、そして唇の温もりが、静かに胸に刻まれた。
「……あたたかい」
梨乃が小さな声で囁く。
「うん、ずっとこうしていたい」
真冬も微笑み、雪の中で二人はしばし見つめ合う。
雪の粒が髪に積もり、頬を撫でる。
冷たいはずの世界が、二人の体温で柔らかく溶けていくようだった。
歩きながら、二人は自然と手をつなぎ、互いに寄り添う。
初めてのキスの余韻は、心の奥に静かに残る甘い暖かさだった。
海辺に向かう小道では、雪が白く積もり、足跡が二人だけの道を作る。
波の音が遠くで響き、冬の風が冷たく頬を撫でる。
でも、手をつないだ温もりが、全てを包み込み、凍ることはない。
「ねえ、真冬さん」
梨乃が少し照れくさそうに言う。
「私、これからもずっと、あなたと一緒にいたい」
真冬は頷き、再び彼女の手を握り締める。
「もちろんだよ、梨乃さん。もう誰にも渡さない」
その言葉に梨乃は小さく笑い、肩を寄せた。
雪の白さに溶けるような静かな幸福が、二人の間に満ちていく。
街灯に照らされた雪道は、二人の影を長く伸ばした。
白銀の世界の中で、互いの存在が確かに心を満たす。
初めてのキス、手を握る温もり、寄り添う肩。
すべてが、雪のように凍らない愛の証となった。
夜になり、町が静まり返る頃。
雪は止み、月明かりが二人を優しく照らす。
真冬の腕に包まれる梨乃の心は、安心と幸福に満ちていた。
──過去の痛みも、未来の不安も、今はただ、この温もりだけがある。
二人の呼吸がゆっくりと重なり、雪の世界に溶けていく。
遠くで波が静かに砕ける音が響き、空気の冷たさを忘れさせるほど暖かい時間。
初キスから始まる、二人だけの冬の物語。
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