ごめん!!!

 迎えた昼休み。

 

 俺は紙に書かれていた通り、屋上へと向かっていた。


 最上階の突き当たり。

 最後の階段を上り切ると、そこには立入禁止と書かれた貼り紙付きの鉄扉が一つ。

 本来なら鍵がかかっているはずなのに、あっさり取っ手が回った。


 ……ゆるすぎだろ、この学校。


 ギィ、と重い音を立てて扉を押し開けると、初夏の暖かい外気が頬を撫でた。

 頭上には雲ひとつない青空が広がっている。


「まだ来てないのか……」


 呟きながら屋上を見渡す。

 人の気配はない。どうやら、先に来たのは俺の方らしい。


 立っていてもあれなので、俺は側にあったボロいベンチにゆっくりと腰を下ろした。


 そして数分後。


「あ、いた。来てくれたんだ……」


 扉の方から控えめな声。七瀬だった。


 そりゃ来るだろ……。


 と内心でツッコミを入れたのも束の間。

 次の瞬間、七瀬は俺の目の前に駆け足でやってきて、勢いよく頭を下げてこう言った。


「昨日はごめん!!!」

「……はい?」

「だからその……昨日はごめん! あの時は、頭に血が上ってたっていうか……八つ当たりするつもりじゃなかったの。ほんとに、ほんとに違うの……」


 語尾が弱くなっていく。

 七瀬は頭を下げたまま、今にも消えそうな声で続けた。


「だから……その……許して、ほしい……」

「……顔を上げてくれ」


 俺の言葉通り、七瀬はゆっくりと顔を上げる。


 緊張しているのだろうか。頬を赤く染めた彼女の表情に、昨日までの刺々しさなんて一ミリも感じられなかった。

 むしろ素直で不器用な、ただの高校生二年生の女の子という表現が、今の彼女にはきっと相応しい。


「別に、俺は怒ってないぞ? まあ誤解されたままってのは、あんま居心地のいいものじゃなかったけど……」

「ほんとにごめん。ひよりからちゃんと話も聞いたし……あれは、私が悪かった」


 言いながら七瀬は再び深々と頭を下げた。


「誤解が解けてたならよかったよ」

「ほんとにごめんなさい……」

「う、うん。えっと、言いたいことは伝わってるから……頭を上げてもらえると助かるんだけど……」


 俺の言葉に、ゆっくりと顔を上げる七瀬。そして彼女は、胸元でぎゅっと握っていた巾着袋をそっと差し出してきた。


 可愛らしいピンク色のそれには、おそらく彼女の昼飯が入ってる。


「一応……お詫びも兼ねて、これ。あげる」

「え、いや、それはさすがに……」

「大丈夫。それに結城ゆうきくん。いつも菓子パンだけだったよね? 見てて気になってたの」


 引き下がる気配ゼロ、か……。


 蒼い瞳がまっすぐとこちらを射抜く。拒否を許さないというか……いや、違うな。

 ただ、彼女なりに償おうとしてるだけだ。


「……わかった。ありがたく頂戴するよ」


 受け取った瞬間、七瀬の表情がふっと緩んだ。


「隣、座ってもいい?」


 俺は小さく首肯する。

 七瀬が隣に腰を下ろした瞬間、ふわっと甘い香りがした。

 シャンプーなのか柔軟剤なのか分かんないけど……悪くない匂いだ。


 その傍ら、巾着から弁当箱を取り出して蓋を開ける。

 中には、色とりどりのおかずがぎっしりと詰まっていた。

 卵焼きに唐揚げ、ほうれん草のおひたし、彩りのプチトマト……見た瞬間、思わず「うまそう……」と声が漏れる。


「ほんと? 口に合うといいんだけど……あっ。今更だけど、呼び方って結城くんでいい?」

「結城でもみなとでも、好きな呼び方でかまわないぞ」

「わかった。じゃあ結城くんで!」


 転校初日の自己紹介でしか名乗ってない名前を、まさかこんな美少女が覚えてくれてたなんてな。

 嬉しいような……なんとも言えない感情のもと箸を手に取った俺は、卵焼きをパクッと一口。


 ……なにこれ。やば。


「どう、かな……?」


 不安そうに顔を覗かせてくる七瀬。


「めちゃくちゃ美味い」


 即答すると、七瀬の肩がほんの少しだけストンと落ちた。


「よかった〜。 あ、あのね? 男の人に自分が作ったもの食べてもらうの、実は初めてでさ。緊張した〜」


 言いながら七瀬は指先で自分の頬に円を描く。

 その仕草が実に女の子らしくて、なぜかこっちまで照れる。


 そして空腹だったのも相まってか、七瀬がくれた弁当は一瞬にして姿を消した。

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愛を知らずに生きてきた俺が、お隣の美少女に心を奪われる話 この地球上が自由帳 @aoi-shizuka1130

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