こつ編⑤ 戦いは"武"のみにあらず

『問題:御坊館学園高校は今年で創立——』

「百周年!」


『——百周年ですが、その内平成は何年間だった?』

「三十一年間!」


 ピンポーン!


『決まったー! ついに最後の決勝進出者ファイナリストが決まりました! その名は——一年C組、星見ほしみぃ———晴吉せいきちぃ——!』

「「「おぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉ!」」」

「か、勝てたぁ……!」


     *    *   *

 

『新入生対抗! 御坊館学園クイズダービー‼』


 当初球技大会の予定だった新入生歓迎行事がこのクイズ大会に変わったのは、つい二週間前のことだった。


 原因はもちろん、野球部員たちによるの暴走。

 全国のお茶の間を少しだけ沸かせたこの事件に関して、様々な意見が飛び交った。

 その中でも……


 しばらく『スポーツ』に関する話題は学園のイメージダウンにしかならない——。


 それが学園運営に未だ影響力を持つ『保護者会』、ならびに『OB・OG会』の主張だった。

 しかし一方で……


 期末試験前の体育祭まで、大きなイベントがないのは学園としてどうなんだろう?

 我が家は勉強をさせるためだけに子供を通わせているわけじゃない。

 高い寄付金を払っているのだから、なにか代替だいたい案を考えろ!


 と、全く真逆の要望を提出したのも、保護者会ならびにOB・OG会だった。

 そんな無理難題を受けた就任二年目の理事長『土御門つちみかど』が、全校集会で生徒に放った一言が、これだ。


「大クイズ大会、しましょう!」


 笑顔で平静を装う土御門の両手が、怒りでうち震えていたのは言うまでもない。

 

    *    *   *

 

『さあ、いよいよ決勝戦の火蓋が切られようとしています! 新入生対抗! 御坊館学園クイズダービー! 実況は引き続き、私放送部部長 野々村 ののむらつかさ! そしてここからの解説には、皆さんお待ちかね、この方をお呼びしております——どうぞ!』

『どうもー! 生徒会副会長、御門 一紗でーす! 決勝進出者の皆さん、最後まで気を抜かずに、頑張ってくださいねー!』


 決勝戦の舞台と化したグラウンドに、一紗の声が響き渡る。

 それには観客の生徒たちが黄色い悲鳴を上げた。

 もちろん、決勝戦に進んだ生徒も例外ではないようで、


「キャー! 御門副会長が応援してくれたー!」

「うおお! 一気にやる気が湧いてきたぜ!」

「生徒会に名を売る、またとない機会だな!」


 と様々な声を上げていた。

 一方の晴吉はというと……


(この戦い、絶対に負けられない。 だってこの後……)


 溢れ出しそうな一紗へのを抑え、グラウンドに設けられた解答者席からじっとある一点だけを見ていた。

 すると……


「ではでは、会場全体がたぎってきたところで、決勝戦のルールを説明いたします! まずはこちらをご覧ください!」


 実況の野々村の言葉に続いて、回答者席後ろにあった布のカバーが解かれ、中身が露わになる。

 それは大きなベニヤ製のボードに描かれた二十五個のマス目——さながらビンゴゲームの用紙のようだった。


『回答者の皆さんには、順番にこのマス目の中から一つを選んでもらいます! 選んだマス目から出てきたジャンルの問題に答えてもらうのですが、その際マス目を選んだ回答者にはそのマスに賭けるポイントを宣言してもらいます!』


 野々村の説明は続いた。


 賭けることができるポイントは、十、二十、三十の三つ。

 賭けるポイントが多い程、出題される問題の難度が上がっていく。

 自分の得意なジャンルなら多く、逆に苦手なら取られてもいいように少なくする。

 解答は早押しで行ない、間違うとその問題での解答権を失う。

 そして……


『この決勝戦の問題——出題するのは、この男!』


 そのとき、晴吉が見ていた一点——グラウンドの隅にわざとらしく置かれていたパーテーションから勢いよく白煙が上がった。


「決勝進出者の諸君! 待たせたね! 決勝戦の出題者はこの僕、芦屋 光士郎だ!」

 マイクを握る手の小指を立てながら、芦屋が解答者たちに手を振ってくる。

 その最中で彼の視線が自分へと向いた瞬間、口元がククッと上がるのを晴吉は見逃さなかった。


(あの顔、絶対卑怯な手を使ってくる……!)


 晴吉は下唇を丸めながら、芦屋を睨み返した。


『ちなみに、ジャンル以外の情報はこちらにも入ってきていません! やはりすべては、会長芦屋の手の中なのか? それともその手中から逃げ延び、勝利を手にするのは一体誰なのか! 決勝戦、開始です——!』


 開始の宣言を聞いた晴吉は、数秒間静かに目を閉じる。

 そして目を開くと、横目で最初のジャンル選択者を見た。

 それは……


『じゃあ、手始めに……三の三、真ん中をもらおっかなぁ?』


 御門たちと同じ学校指定のブレザーを窮屈そうに着る、一人の女子生徒だった。

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