契約④ ボクらは悪神(あくしん)
晴吉が目覚めたことで、ようやく情報の整理が始まった。
ベッドを背に春吉が正座をし、それを囲むように四匹が各々腰を下ろす。
とんは正面の床、こつは押入れの上段、てつは回る椅子の上、なぜだかきゅうは春吉のすぐ隣。
その一糸まとわぬ裸体は、晴吉が押入れから引っ張り出したタオルケットや毛布で覆われていた。
こうして、どこにでもありそうな日本の
一人を依り代にした、悪神『
簡単に自己紹介をした後、会話は晴吉の謝罪から始まった。
「えっと、まずは何も言わずに突然倒れてしまってすいませんでした。皆さんがどんな存在だったとしても、やっぱり失礼だと思うので……」
そう言って深々と頭を下げる晴吉に、とんが「いやいや」と首を振った。
首の振りに合わせて揺れる前髪の間からは、光のない目が見え隠れする。
「形はどうあれ、お前の願いのおかげでボクたちはこうして受肉できたんだ。本来なら、こちらが先に礼を言うべきところだよ」
「い、いいんですか?」
「構わないさ。これからお前には、色々と教えてもらいたいことがあるからね。よろしく頼むよ——晴吉?」
「こ、こちらこそよろしくお願いします、こん様」
再び頭を下げる晴吉に、こんは「
するとそこへ、押し入れの上段からこつが割り込んできた。
「小僧、命拾いしたな。もしとんがキレてたら、お前はとっくにおっ
「は、腹の……」
こつの言葉に、晴吉が目を見張る。
そして、件のとんとてつに目だけで「本当に?」というふうに訴えかけた。
「この赤毛——こつの言うことは気にしなくていい。ボクがキレるなんてことは……中々ない、と思う」
「それ、結構あるってことじゃあ……あっ、いえ! 信じます! 信じますよ、とん様のこと!」
困り顔から真顔に、そして笑顔にとコロコロと表情を変える晴吉。
そんな彼にとんは「だから様はいい」と言って諭した。
「ともかく、キミがあまりに
安心してくれ、と晴吉にとんが微笑みかける。
晴吉からは彼女の目元が見えず、本心は読み切れなかったが、彼女への恐怖心もあって頷くほかなかった。
続いて、てつが椅子をクルクルと回しながら口を開いた。
「僕も、当分キミを食べることはないかなあ。さっきは久しぶりに受肉したせいで、反射的に口が出ちゃったんだ——ごめんね?」
舌を出しておどけてみせるてつに、晴吉はハハと笑って誤魔化した。
「は、反射的にならしょうがないですね、うん」
「うんうん、しょうがないしょうがない。ああそうだ、晴吉、さっき僕がかんじゃった手を出してくれる?」
ヒヒッ、と妖しく口角を上げるてつに、晴吉は
「た、食べないでくださいよ?」
と恐る恐る彼女に右手を差し出す。
何本も赤い傷が走り、いまだ血の匂いが鼻をくすぐるそれを、てつはまるで愛おしむかのように両手で包み込んだ。
そして……
「……ペロ」
「——!?」
てつの口から鮮やかな、赤く長い舌が姿を現し、手の傷を舐め始めた。
一本一本、その傷の形すら味わうかのように、ゆっくりと。
もしてつが元の
しかし現実は、年下の女子に手指を舐められるという倒錯的なシチュエーション。
晴吉の喉が、否応なしにゴクリと鳴った。
やがて、てつが恍惚に細めていた目を静かに開き、舌で口元を拭う。
すると、晴吉の傷から次々と血の
晴吉が試しに治った手指を数回曲げ伸ばしてみると、痛みは全くない。
彼の口からは、ほおと感嘆の溜息が漏れた。
「どう? すごいでしょ?」
「は、はい、すごいです……俺、てつ様のこと、誤解してたみたいです」
「誤解?」
こつが羽織っていたタオルケットで口元についた血を拭いながら聞き返した。
「てつ様……だけじゃなくて、皆さんはただの神様じゃないですよね? 神社に祀られてる神様にしては影があるというか、荒ぶってるっていうか……。それなのにこんな、癒しの力を持ってるのを見ちゃったら、本当はそうじゃないのかな、って」
晴吉の顔に、ぎこちない笑みが生まれる。
しかしてつの顔は、虚を突かれたような真顔になり他の三匹と目配せをした。
やがて目配せが終わると、てつが小さく息を吐く。そして彼女は晴吉の顔に急接近し、こう告げた。
「残念だけど、僕たちはお前が最初に思った通り、ただの神様じゃない。お前が言った『癒しの力』だっけ? これはね……」
——昔喰ってやった
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