海ノ大神年 桜月六日
海ノ大神年 桜月六日 第一話
今更だが、なぜこんな貧弱な釣竿で何でも釣れてしまうのだろうか。
釣りに関しては全くの素人なので、この魚を釣るにはこの釣竿、この魚を取るには釣竿ではなくて
海釣りを始めた頃は楽しさが勝って疑問なんて浮かばなかったけど、ある程度慣れて来てからはずっと抱えていた疑問だ。
聞こう聞こうと思いながらもタイミングを逃していたけれど、やっとその機会が巡って来た。というのも、釣竿が壊れたのだ。
「おっと、壊れちゃったか。貸してごらん」
惺大は重量のある
「うん、ここまで大破してしまったら、僕には直しようがないね。惺大、予備の釣竿を使って」
「わかった、じゃあちょっと取ってくるわ」
船内へ戻ろうと右舷のミヨシから胴の間へと歩いて行く惺大を横目に、隣で壊れた釣竿を見下ろす縁に視線を遣る。聞くなら今しかないだろう。
「ねえ縁、どうしてこの釣竿で何でも釣れるの?」
「え?」
キョトンとした表情をされたので、こちらが拍子抜けしてしまう。「実はね…」と隠世イリュージョン的な解説が始まるのかと思っていたものだから、意外だ。
「釣竿だから?」
釣る魚によって釣竿の種類や釣り方を変えるという考え方は、最近の話だ。私や惺大が生まれた頃には既にそういった技術があったから、当たり前にそんなことを疑問に思うのかもしれないけど、縁はどうだろう。
私たちよりも先に死んでいるのだから、ずっと昔に亡くなっていてそれから長い時を隠世で過ごしているかもしれない。だとしたら、釣竿の種類がどうとか、そんなことは彼の生きた時代にはなかったのかもしれない。
それか彼も釣竿に関しては素人か。それとも…
「あるいは、これは創造の神様に頂いた釣竿だから、何でも釣れる仕様なのかもしれないね」
「……そう言うと思った」
やっぱり神様関係だった。
神様とよく関わる亡者だし、もしかしたら生前神隠しにでも遭った人である可能性も視野に入れることにした。
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