海ノ大神年 木の芽月十五日
海ノ大神年 木の芽月十五日 第一話
「え?」
珍しく縁が狼狽える声に、どうしたのかとコルクボードの前に集まる。
「どうしたの?」
「これを見て」
彼が指さしたのはノルマが書かれたメモ用紙。いつもと違うのは、そこに書かれた
「こんなに沢山ノルマを課されたことはないんだ。そんなに都合よく釣れるものでもないしね」
驚きはしたが、結局は釣るしかない。のんびりとした海上生活を送っているから忘れがちだが、それが私たちの仕事だ。
「最近調子いいし、きっと釣れるって」
惺大曰く、釣りづらいラインナップではないようなので胸を撫でおろす。
「まあ…気合で、ね?」
「そうだね、今日も頑張ろう」
もしもメモ用紙にマナティや珍魚なんかが記載されていたらとても「気合で」などとは言えない。
まずはノルマの中でも旬の
「今が旬でこのリストにある魚ってなると…
どちらも馴染みのある魚だ。
「少ないね…他に、年中釣れる魚はある?」
「このメモの中だとないかも」
「ひとまず今月中にさっきの二匹釣っちゃおうよ」
「そうだね」
…と、意気込んだはいいものの、そんな都合よく釣れるはずもなく。
縁は仕方なく
「
「とんでもない」
それだけではないと縁は首を横に振った。
「
「似た記憶の
「そうだよ。餌に使った
私たちが目を閉じて
「だから僕はこの手法は好きじゃないのだけれど、神様のご依頼ならば仕方がないよね」
残念そうに苦笑する彼は、気が進まないようだったけれど大水槽へと向かった。
大水槽で泳ぎ回る中から
私と惺大も手伝い、釣りを再開する。
「でも
「まあね。餌に使った
「そっか」
「休む暇がないくらい釣れるのか?」
「ないとは言い切れないね。だけど僕はそんな忙しさを経験したことはないかな」
あの会話から十分。十分も経つが、未だかからない。
調子のいい時は〝回想〟でも餌をつけて十分以内に釣れることが多々ある。それなのに今、全然休憩出来てしまっている。
木の芽月中、ずっとノルマ達成に躍起になる未来が見えた。
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