海ノ大神年 霞初月八日

海ノ大神年 霞初月八日 第一話

 話題がなくなると大体天気の話か、何色が好きだとか、そういう他愛もない話が始まる。

 丁度、惺大の船舶免許を取得するために猛勉強した時の話が終わり、話は誕生日の話になった。

 そう、他愛もない話。だけど、楽しい時間。



「僕は確か五月十八日だったかな。随分と前のことだから、正しいかはちょっと曖昧かな」



どれだけ隠世にいれば自分の誕生日を忘れるのかとツッコミたくなったが、私も大概だ。私の場合は祝ってもらった記憶がほとんどないから、記憶に留めるほどの日という認識がないだけだけど。



「俺は四月二十八日。漓宛ちゃんは?」



言い難いが、聞かれたのに無視するのは気まずい。



「実は今日なんだ」


「まじ?、おめでとう」



誕生日を迎えても、亡者は歳を取らない。生きていたら二十七歳になっていたけど、死に近づいていることを祝うのは変だし、私の場合生まれたことを祝われたのはクラスメイトとか兄さん以外だと初めてかもしれない。

 ケーキもプレゼントもなかったけれど、親の目を盗んで兄さんは毎年誕生日おめでとうという祝いの言葉を贈ってくれた。一人暮らしになってからはそれもなくなったけど。



「ありがとう。祝ってくれるの、素直に嬉しい」


「聞きたいのだけど、生まれた日を祝う習慣が二人にはあったのかな?」



どうやら縁にも誕生日に祝われるという感覚があまりないようだ。

 あからさまに落ち込んでしまった惺大を励ます。きっとこの子は私と違って、祝われることが当たり前の環境で育ったのだ。家族からも、沢山の友だちからもきっと盛大に祝われてきたに違いない。カルチャーショックを受けるのも、無理はないだろう。



「それよりさ、凄くない?」


「……何が?」



項垂うなだれながらも話に乗ってくれた惺大に、三人の誕生日を順に口にしていく。



「みんな八がつくよ。何かの縁かな」



そう言って笑って見せると、少しいつもの元気を取り戻したのか「本当だ。え、偶然?。やばくね?」と彼に笑顔が戻る。

 惺大は純粋でいい子だ。空気も読めるし、少しは心を開いてもいいと感じ始めている私がいるせいか、棘のある話し方をしなくなった気がする。

 そんな変化を縁には気づかれている気がして、なんだか照れくさかった。

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