山ノ大神年 限り月二十一日 第三話
複雑に枝分かれしていた廊下を難なく進む縁が私たちに「ここだよ」と声をかけたのは、波の絵が描かれた大きな
「先に僕が」
襖の前で足を止めた縁は、肩越しに振り向いてそう囁いた。しかし――
「その必要はありません」
襖の向こうから、荒波のような美声が
「三人ご一緒にお入りなさい」
その声を聴いてさっさと襖を開けてしまう縁に代わるように、私と惺大は「失礼します」と頭を下げて告げる。
顔を上げた先、薄暗がりの中に海の神様――
襖の奥は和室になっていたので、
「随分と大勢でいらしたこと。…頼んだ品はその鉢へ」
指示された通り、床の間に置かれた大きな硝子の鉢へ持って来た
鉢の中で元気よく泳いでいることから察するに、鉢の中に張られていた水は隠世の海水なのだろう。
「そこへお座りなさい」
言われるまま座敷に正座する縁を挟むように、私たちも同じように座る。
冷たさを伴った沈黙に、背筋が自然と伸びた。
「……あなたがこれほど沢山の屑を持って来るということは、その分隠世の海は屑で汚されているのね」
縁は
「それに縁、亡者を二人も連れて来るなんて勇気があるのね。もしかして、
悠然とした笑顔で話しているけど、
そんな海の神様に怯むことなく、縁は口を噤んだまま黙っている。
「…まあ、生前海を汚した人間ではないようだから屋敷に入れてやったのだけれど。それで、隠世の海はどうかしら」
促されて初めて縁は口を開いた。
「残念ではございますが、先にここへお邪魔させて頂いた時分よりも、事態は深刻かと存じます」
「そう…。人間をこれ以上増やすのはどうなのかと追及したけれど、あの様子では他神の言うことには耳を貸さない心づもり。それでもあの
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