縁編 第三話

 口を開けた船の中へ入ると、思った通りソワソワと落ち着かない様子の惺大が待ち構えていた。漓宛に惺大のことを意図的に隠していたわけではない、単に話し忘れてしまっていただけ。



 二人の自己紹介を見ていて、興味深いことに気がついた。

 生前どこかですれ違っていたり、知らずに同じ場所へ居合わせていたりした可能性があるにしろ、二人は他人同士。自己紹介しているのがその証拠。

 現世はきっと隠世と違って広大な地なのかもしれない。



 漓宛は先程まで輝かせていた瞳をどんよりと曇らせ惺大と対峙していた。彼の方は彼女の鮸膠にべもない態度を特段気にしている様子はない。

 そんな二人を見ていると、彼らは性格や生い立ち、持っている現世での思い出全てが全く異なる亡者なのだということを僕に教えてくれる。

 二人と話すのがより楽しみになった。

 似た亡者から話を聞くよりも、正反対の者たちから話を聞く方が聞き手として得られるものは多くなるだろう。



 遅くなったことを惺大に謝ってから、漓宛にこの船について色々と話そうと思い立ったけれど、どうやら惺大が漓宛に船を案内をしてくれるようだ。なので、僕は船の口を閉じて船の奥へと進む。

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