縁編 第二話

 海の神様――浪華ろうか様もお怒りのことだし、来世にも牧場にも行かない亡者には、海を綺麗にする仕事を勧めて一緒に亡者の記憶を収集する日々を送ることにした。



 この仕事をしていて気づいたことは、どんなに来世へ行くことを躊躇していた亡者もいつかは必ず来世へ行ってしまうということだ。

 それほどに焦がれる場所なのか、現世は。



 別れは寂しいものと聞くけれど、僕がそう感じたことはない。だって別れには出会いがつきものだから。



 今日も新たな出会いを求めて海岸へ戻って来た。

 既に一人、沖へ出た惺大という友人がいるのだけれど、二人では少々賑やかさに欠ける。亡者は多い方が色々な話を聞けて楽しい。

 それでも多くて三人までだ。烏鵲うじゃく様に迷惑をおかけするわけにはいかないので、僕の目が届くような人数でなければならない。



 今日も、来世へと続く列が出来ている。その列から少し離れた道端に、寂しそうに丸まった背中が目に留まる。

 彼女は二の足を踏むことなくついて来た。

 大抵の亡者が僕を警戒する。神かあるいは死神か、閻魔様かなんて言って、悟りや怒声や怯えを交えて尋ねられる。でも、彼女は僕が何者であるかなんてどうでもいいらしかった。こういう子は、初めて。

 拍子抜けするのと同時に、少しも疑わないのは彼女の危うさにも感じられた。

 隠世だからと言って安全なわけでない。神様に無礼を働くといったあからさまな行いをしなくても、隠世に存在する細かな理に反すると、もしかしたら地獄よりも痛い目に遭うかもしれない。

 これまで迷える亡者を誘ったように、今度も船へと案内する。



「どんなことをするの?」



そうだ、まだ説明していなかった。



「詳細は追々伝えるけれど、ひとまずは海の屑を釣って集める仕事だと思ってくれればいいよ」



ふーん、と気のなさそうな声で答えているけれど、目は水泡みなわのように煌めいていて、彼女の本質をそこに見た気がした。

 彼女の名前は漓宛といった。

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