縁編

縁編 第一話

 僕は亡者でも、神様でもない。何にもなりきれない、中途半端な存在。

 強いて言うならば、現世に生きることのなかった人間のだ。



 創造の神様である烏鵲うじゃく様は、現世に何かを誕生み出す時には必ず試作品をお創りになる。あの御方は自分の成果物である作品を手元に置いておきたがるから、最初に創った試作品を自らのお傍に置いた。

 無論、その試作品は隠世から出ることはない。

 だから、僕も。



 生まれなかったも同然とも言えるけれど、僕がこうして呼吸しているように確かに存在している。現世が全てではないとあの御方は僕に言い聞かせたけれど、納得がいかなかったのは僕が現世を知らないからだろうか。



 試作品と一重に言っても色々だ。無機物である孫の手や洗濯板といった物と違って、僕のような生きていて成長を遂げる試作品もある。後者である僕は烏鵲うじゃく様の御手で育てられた。他の生きた試作品と一緒に育てられたけれど、僕は特に可愛がっていただけた。烏鵲うじゃく様を真似たおかげで言葉を話せたから。

 そのせいか、あの御方は気に入って沢山人間を創っては現世に誕生させるようになった気がする。



 烏鵲うじゃく様は、生きている試作品が歳を取っていずれ死ぬこと恐れた。大事に傍へ置いていた試作品が死んでしまうのは困るからと、生きた試作品たちに神様と同じ不死身の孤独を課した。

 その詫びにと、屋敷の中では自由にさせてもらえた。不満を訴えた僕には、特別にと屋敷の出入りも許された。

 隠世の中でならどこへ行くのも許されている。万が一僕が亡者の列に紛れて現世へ行こうと企んでも、その道は閉ざされるようになっている。

 試したことがるのかって?、勿論だよ。



 どんな手を使っても隠世から出られないと悟った時、不思議と絶望はしなかった。それが無理ならと、隠世に留まっている亡者と交流をするようになっただけのこと。

 彼らは現世に生きた、試作品ではない人間だ。僕の知らないもの、こと、世界を知っていて、一緒に過ごせば僕も現世のことを知ったような気持ちになれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る