惺大編 第三話
「こんにちは」
声をかけると、驚かせてしまったのか、彼女は弾かれるようにこちらを見た。きっと縁さんがちゃんと俺の存在を説明していなかったんだろう。
出会ってからまだそう時間は経っていないけれど、彼が些か説明不足な話し方をする人だということには気づいていた。
簡単に自己紹介を済ませると、彼女は戸惑った様子で首を傾げた。
「そこにいる子も初めてこの船に?、…その割には慣れている様子に見えるけど」
「惺大は少しだけ仕事を経験しているよ。人手が足りずに戻って来たから、経験者と呼ぶには日が浅いけれど」
淡々とではあるけれど彼女――漓宛ちゃんも自己紹介をしてくれた。
明らかに俺に向ける表情が険しいのは気のせいではないだろう。初対面で失礼な言動をした覚えはないし、単に人見知りする質なのかもしれない。
まあこれから沢山時間はあるし、少しずつ彼女を知って仲良くなって、打ち解けてもらえたら嬉しい。
それに、俺は縁さんのことも漓宛ちゃんと同じくらい知らない。
彼は人当たりがいいし一緒にいて居心地がいいけど、自分のことを話さないから俺ばっかりしゃべってる。
これから二人のことを沢山知ることが出来たらいいな。
死んでも尚、来世へ行くまでの間に友人が出来るとは思っていなかった。人生これからって時に死んだ俺にとっては青春の延長線上のような感覚さえある。
縁さんと一言二言言葉を交わしている間も、船内を「これは船なのか?」と疑念満載の表情をしている漓宛ちゃんを見て口を噤む。
予想通り案内をしてほしいと頼まれたから、喜んで引き受けた。
「この船どう見ても外観魚だから、船か?ってなるよな。でも中には操縦室もあるし、生活空間もあるし、釣り場もあるんだぜ?。一部屋ずつ案内するよ」
俺と漓宛ちゃんの後ろでは、魚の口のような船の出入り口を手動で閉める縁さんが楽し気に先を促してくる。どうやら案内役を全て俺に任せてくれるらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます