惺大編

惺大編 第一話

 亡者の訪れる世界――隠世へやって来てから随分と経つけれど、家族が来るのはまだまだずっと先。


 じいちゃんとばあちゃんは牧場で待っていると教えてもらえたけど、がそっちに行ったところで悲しませてしまうだけだろう。

 両親と再会するのだってずっと先の話だろうし、そうであってほしい。俺のように病気で早くして死んでほしくはない。現世あっちで元気に過ごしてくれているんなら会えるのは百年後より先だって構わない。

 それに両親が生を終えてこちらに来たとして、まだ妹や弟を待つ時間がある。


 その間に、どうにかして失くした記憶を取り戻したかった。生前は仕方がないと諦めていたけど、死後の世界でまで諦めるつもりはない。記憶も死んだ、と考えれば隠世に失った記憶があるんじゃないかと希望を持っていいはずだ。

 家族と再会する前に失った記憶をなんとか探し出そう。

 そんな希望的観測が過ぎているような気もする目的ために、牧場にも、無論来世にも行かずに列を抜け、俺はここに残ることにした。

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