漓宛編 第三話
縁とは異なる声に挨拶をされ、声のした方へ素早く視線をやる。
闊達そうな笑顔を浮かべていたのは、小麦色に日焼けした男の子だった。幼さの面影が薄れてきてはいるものの、高校生くらいだろうと推測出来るくらいには子どもらしさが残っていた。
「彼は?」
「
縁に訊いたのに。
どうやら惺大と名乗るこの子は、既に縁と仕事をしたことがあるらしかった。
「漓宛です」
仕方なく名前だけは名乗っておく。だけど、どうもこの子は苦手だ。
家族に愛されているという揺ぎ無い自信がこちらにまで伝わってきて、別に彼が悪いわけじゃないけど、沸き立つ苛立ちが抑えられない。私には届かなかった全てを当たり前のように持ち合わせて生きて来た顔をしているのが、それを助長させるのかもしれない。
「遅かったじゃん」
「一緒に海釣りをしたいと思える子がなかなかみつからなくて。随分と待たせてしまったね」
「それは構わないよ。おかげで仕事のおさらいをする時間もあったし」
こういうタイプの人間に対する苦手意識は、生きていた時も、死んでいる今も、どうやら変わらないようだ。彼の一挙手一投足に文句をつけたくなるし、そんな自分が大嫌いだ。
死んでも私は私のままだという現実を突きつけられるのは、死んだという事実を突きつけられることよりもずっと胸が苦しかった。
知り得ない会話で蚊帳の外になっていた私を気にしてか、二人が会話を切り上げた。このタイミングだと思い、口火を切る。
「船内…船で合ってる?、を案内してほしいんだけど…」
これも縁に言ったつもりだったけど、どうやら惺大は自分に言われたと勘違いしたらしい。気は進まないけど、彼とも良い関係性を築けるよう努力しなければ。
この先いつまでかわからないけれど、縁だけでなく彼とも一緒に逃げ場のない海上で生活するのだから。
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