絶対に断罪はさせない!と息巻く転生悪役令嬢 -彼女の誤解と独り相撲は誰にも止められない-
月都すほ
第1話
フォンテーヌ公爵家令嬢 ルーシア・ラ・フォンテーヌ。
彼女は、秋バラの濃密な香りの満ちた庭園で不意に、自分がかつて日本と呼ばれる国のブラック企業でOLをしていた事を思い出した。
気が付けば花の咲き乱れる美しい庭園にいて、極彩色の髪色の美しく着飾った女性たちが優雅な所作でティーカップを傾けていた。
目の前の、白いクロスのかかったテーブルにはサンドウィッチやカップケーキ、スコーンなどの軽食が並んでいる。どうやらガーデンパーティの最中のようだ。
前世の彼女は馬車馬のように働き詰め、心の拠り所は通勤時間や夜眠りにつく前にスマホで読むインターネット小説だけだった。
そしてその記憶から、自分がまさしくその小説の登場人物のように乙女ゲームの世界に転生した事を悟る。
ハロウィーンでもないのにこんなカラフルな髪色の人たちが集まるお茶会なんて、乙女ゲームの世界を疑って当然だろう。
自分の姿を確認しようにも、鏡などない屋外である。
何かないかと周りを見渡すと、手元のティーカップで水鏡が出来ることを思いついた。そうして、ゆっくりと覗いた紅茶の水面に映る自分の姿に、思わずにんまりと笑みを溢しそうになる。
前世で陰キャで喪女オタクだったのが嘘みたいだ。
ストレートの長い銀髪はさらさらと絹糸のよう。ぱっちりとした猫目は大粒のアメジストのようにきらめいていて、白磁の素肌は触らなくてもわかるほど滑らかだ。
歳の頃はまだ十四、五といったところだろうか。妖艶な見た目の中に幼さを残しており、さながら咲き始めの薔薇の蕾のような美少女である。
「なるほど、悪役令嬢転生ね…」
ぽつりと呟く。
しかし、自分が乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生してしまったことはわかっても、ここが何と言う作品の中なのかまでは彼女にはわからない。あくまで、彼女が好んでいたのは「乙女ゲームの世界を舞台にした小説」なのだ。
テンプレと言われるような王道展開では、平民や下級貴族出身のヒロインが貴族の学園で王太子に見初められ、魅力的な攻略対象と恋に落ちる。その恋の障害となるのが王太子の婚約者である悪役令嬢だ。
嫉妬に狂ってヒロインをいじめ抜き、ヒロインの命を脅かそうとしたところヒーローである攻略対象によって断罪される。
悪役令嬢の末路は貴族の地位を剥奪され修道院や国外に追放されたり、死刑にされたりとまあ悲惨なものだ。
しかし昨今のインターネット小説の中では、悪役令嬢に転生した主人公が断罪を回避する小説も多い。
「よし!絶対に断罪を回避してみせるわ…!」
せっかくの第二の人生だもの、ヒロインの犠牲になんてなるものですか!
それから3年が経ち、
十七歳になったルーシアはまさしく絵に描いたような悪役令嬢に育っていた。
ぱっちりとした猫目は大粒のアメジスト、白く滑らかな肌はビスクドールのよう。豊満な胸で肩がこるのは難点だが、曲線を描く肉付きのいい身体は女性の目から見てもセクシーだ。
そろそろヒロインが現れてもおかしくない頃だわ……
そう思っていたところ、つい先日行われた王立学園の入学式で、ルーシアはヒロインと思しき少女を見つけた。
ふわふわとした淡いピンク色に見えるストロベリーブロンドの髪にピンク色の瞳、華奢な肢体に女の子らしいメイク。まるで小動物のような可憐な子爵令嬢。
こいつに違いない。
学園での生活の中で、驚くほどヒロインと接触がなかったルーシアだったが、かつて読んでいた小説では「物語の強制力」でヒロインの都合のいいように事実が歪められていることもあった。
今回はそのパターンなのだろう。
そう考えているうちに、婚約者アロイス王子が成年となる誕生日に立太子されることが決まった。
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