うるさい
白川津 中々
◾️
誰もいない場所に行きたい。
「またミスしてるよ。データ入力すらできんのかあいつは」
出社して早々、隣の同僚がうるさい。自分を棚上げしてよくも容赦なく人を貶める事ができるものだと溜息が出る。これまで自分がどれだけ失態を重ねてきたかリストにして突き付けてやりたいものだが、そんな度胸のない俺は、黙って聞いているしかなかった。内面で悪態を吐くばかりの俺も、同僚と同じレベルで人間としての質が低い。それに、奴のように、誰かへの不平不満を口にした事がないといえば嘘になる。結局二人して下等なのだ。
他者への侮蔑と自己嫌悪。それだけで朝から疲れてしまって、なにもかもやる気がなくなってしまった。帰りたい。しかし、そんなわけにもいかずキーボードを叩き資料作りを始めるも頭の中がまとまらず、文章が固まらない。書いては消す。その繰り返し。
「まだそれやってんの?」
同僚からの嘲りに愛想笑いで返す。また、頭の中が乱れていく。
どうして他人は俺の心を蝕んでくるのだろう。誰かの声を聞くだけで、話しかけられるだけで、どんどんと沈んでいく。誰もいない場所で、誰の存在もない場所で、静かに暮らしたい。そんな夢を抱きながら、今日も社会の中で生きている。
「うるさいなぁ」
デスクでの呟きが周りの騒音にかき消されていく。頭の中が、ずっとまとまらない。
うるさい 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます