第22話 告白の裏に残る影

屋敷に響く雨と風の音。

その中で、石田は涼香を落ち着いた視線で見つめていた。


「涼香さん。まずは、葉月さんに送った怪文書について話してもらえますか」


涼香は肩を震わせ、小さく頷く。


「……はい……あの文書は、私が送ったものです……」


涙を浮かべ、嗚咽混じりの声。

すでに証拠は揃っており、否定の余地はない。


次に、千秋様の部屋での出来事について問われる。机の上に散らばったノート、折れたペン、残るハンドクリームの香り――すべてが涼香の関与を示していた。

「……はい、あの部屋を荒らしたのも、私です……」

涼香は目を伏せ、震える声で認める。涙を浮かべ、嗚咽混じりの声で、もはや否定はできない。


そして――階段での事故について。


「……あの時、少しだけ……軽く押してしまいました……」


震える声で告白する涼香。

「まさかあんな大きな事故になるとは……ごめんなさい……」


涙が止まらない。


石田は冷静に見つめる。

圧迫するのではなく、事実を整理させるように。


「分かりました。事実を認めることが大切です。まずは憂さんの回復を最優先にしてください」


雨音が絶えず打ち付ける中、室内には涼香の嗚咽だけが残った。


「……葉月さんが、私よりも仕事がうまくて……嫉妬してしまったんです。

それに……千秋様にもっと気に入られたくて……」


涼香の声は震えながらも、どこかで救いを求めていた。


「でも憂さんや千秋様が仲良くしているのを見ると、許せなくて……。

あの子たちが楽しそうにしているのが、羨ましくて悔しくて……」


怒りと悔恨、羨望が交錯する声。

全ては、認められたいという渇望から生まれたもの。


だが、石田の瞳には微かな違和感が浮かんでいた。


「……本当に、これがすべてなのか?」


その瞬間、涼香の脳裏に――過去の記憶がよみがえる。


幼い頃。

姉と比べられ続けた日々。

絵の具を隠してしまった夜の罪悪感。


「……私、昔からこうなんです……」


涼香の声は涙に濡れ、掠れていた。


「誰も私を見てくれなくて。

葉月さんを見てると、あの時の自分みたいで……我慢できなくて……」


石田は黙って聞いていた。


「……それに、匿名のアカウントから脅迫メッセージが届いたんです。

『隠してること、全部把握してる』って……」


「脅迫、ですか?」


「はい……怖くて、パニックになって……。

怪文書を送ったり、部屋を荒らしたり……階段のことも、衝動的に……」


沈黙。


雨音だけが、屋敷を包み込んでいた。


石田はゆっくりと息を整える。


(……全てが、彼女ひとりの行動とは思えない)


だが今は、憂の回復が最優先だった。


医務室での寝言が脳裏をよぎる。


――「雪姉」。


石田は静かに携帯を手に取り、番号を押した。


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