第7話 ひとつのケーキ、三つの想い

 奥の扉が静かに開き、大きなワゴンが運ばれてきた。


 その上には三段のバースデーケーキ。


 純白のクリームに苺の花冠が飾られ、春の光をまとっている。


「わ、わぁ……! 本当にわたしのために……?」


 憂は目を輝かせ、胸が高鳴るのを感じた。


「ええ、もちろんですわ。お誕生日は特別なもの。記念に残る日にしたくて」


 千秋が穏やかに微笑む。


 銀のナイフが差し出され、憂は戸惑いがちに手を伸ばす。


「え、でも……ひとりで切るのは、ちょっと……」


「おっと、そこで私達の登場よ!」


 葉月が軽く指を鳴らし、にっこり笑う。


「ここは“チーム・シスターズ”で揃って入刀タイム。ひとりより三人でね」


「……その通りですわね」


 千秋も手を添え、三人の指が重なる。


 ゆっくりとナイフがケーキへと沈んでいった。


「お嬢様方」


 低く落ち着いた声が響き、執事・小野が一歩前に進む。


「よろしければ、記念のお写真をお撮りいたしましょうか」


「き、記念写真……!」


 憂は慌てて顔を上げる。


「ほら、せっかくお姉ちゃんがプレゼントしてくれた新しい携帯があるじゃない?」


 葉月がにやりと笑う。


「初めてのシャッターは、ケーキの入刀でお決めになるのがよろしいですわよ」


 憂は携帯をそっと小野へ手渡す。

 まだ指紋すらついていない新品が、春の陽光にきらりと光る。


「かしこまりました」


 小野は膝を軽く折り、構図を整えながら撮影準備を進める。


「では、皆さま、笑顔を」


 三人は顔を寄せ合った。


 千秋は優雅に、憂は少し照れながらも嬉しそうに、

 葉月は片目をウインクして――。


 ぱしゃり。


 画面に映し出されたのは、豪華なケーキにナイフを添える三人の姿。

 胸元のネックレスが光を反射し、憂の笑顔はほんの少し涙をにじませる。


「ふふん、見なさい憂ちゃん。これが“記念すべき一枚目”よ」


 葉月は満足げに腰に手を当てる。


「……うん。本当に宝物みたい」


 憂は小さく微笑む。


「友情を映す一枚……ええ、とても良い思い出になりましたわ」


 千秋の言葉に、三人の視線が自然と重なる。


 その瞬間――


 ケーキより甘く、確かな絆が三人の間に結ばれ、

 春の風のように優しく広がっていった。

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