第9話 打ち上げ

 まだ高校生なので、居酒屋ではソフトドリンクで柔道部員が乾杯をする。「お疲れ」の労いとともにグラスの端を合わせ合う。

 俺はコーラで龍平と乾杯した。龍平はジンジャーエールだ。タキシードも脱いでTシャツとジーンズになっている。


「それにしてもあれだ。真希ちゃん、マジでキレイだったよな。ちょっと人間離れしていて、こっちが引くわ」

 

 部長は早速届いた唐揚げとフライドポテトを交互に食べつつ、嘆息する。


「お前は引かないのか?」

「俺ですか?」


 喉が渇いていた俺はコーラを一気飲みして考える。


「引いてますよ」

「だろうな」

「真希ちゃんの方がいくら好きでも、彼氏になる度胸のある奴、いるんかな」

「そもそもの話だけど、真希ちゃん彼氏っているの?」


 部長に聞かれて俺は即答した。


「いないはずですよ。あいつ、おしゃべりだから、いたら必ず何か言ってきますから」

「あいつ、ね」


 他の部員に突っ込まれ、俺はにわかにドギマギする。


「すみません。つい、いつもの癖で」

「お前、真希ちゃんをあいつ呼ばわりしてるのか?」

「お前とあいつ呼ばわりです」

「よく言うよ」


 こっちが開き直れば、突っ込みも引っ込まざるを得なくなる。俺はこういう場面の切り抜け方がわかってきていた。

 女子部も合同で開かれた打ち上げのテーブルは、山のような唐揚げやフライドポテト、ピザ、シーザーサラダ、明太子パスタ、フィッシュフライのタルタルソースかけなど、カロリーの塊がずらりと並ぶ。

 俺はフィッシュフライのタルタルソースが気に入って、タルタルソースをたっぷりつけたフライを口に運んでいた。


 茶道部の方はどうなのか。

 気になって仕方がない。 

 女子ばかりの部活だが、真希を送ってくれる人がいればいいのだが。


 だが、しばらくしてラインが来た。真希からだ。


 『帰りのバス、空いてたし。ちょうど私の前の一人掛けの席が空いたから座って帰れたよ。安心して』


 ラインを読んで俺は脱力した。良かった。無事だった。一人掛けの椅子に座ったターゲットに痴漢するなんて、まず無理だろう。バスの駐車でよろけたふりをして真希の腿の上に荷物をぶちまけ、どさくさに紛れて手に触れるとか、腿に触るとか? そんな非現実的な方法しか思い当たらない。

 ともかく運も良かったようだった。


 これで心置きなく楽しめるかと言えば、陰キャラの俺は二次会のカラオケは苦手なたちだ。

 龍平は二次会も行くと言ったが、俺はさっさと一次会だけで帰ってきた。

 早く無事な真希が見たかった。



 

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