第5話 裏方でいいのに
文化祭当日には柔道部の男子も女子も教会に集まり、教会の裏部屋に膨大な量のウエディングドレスやフェイクのアクセサリー、ヒールの靴などの準備をした。
ドレス選びのアドバイスや着替えの手伝いなどは女子部が行い、男子部は写真を撮る。
カップルで写真を撮りたい一人客の女性には白いタキシードを着た男子部のイケメンがペアになる。
龍平はそのイケメンの役割を、俺は使い終わったドレスに消臭殺菌スプレーをかけて元の場所に戻す裏方だ。
客足は盛況で、長い列までできている。確かに真っ白のウエディングドレスは女の子達の憧れだ。この企画を思いついた女子部はすごい。
俺は着終わったドレスにひたすら消臭殺菌スプレーをシュッシュして元のハンガーに戻していると、にわかに外が騒然となる。何事かと思えば、真希が友達二人を引き連れてやって来ていた。
「高良ーっ! 来てあげたわよー!」
大声で俺を呼ぶ真希に俺は苦い顔をして舌打ちをする。なんであいつがここにいるんだ。茶道部員は
高良、高良と呼びつけられて、仕方なく俺は表に出た。
「お前達は野点じゃなかったのか?」
「私達は午後から。今は別の部員が
亭主とはお茶をたてる役割の人を呼ぶ時に使う専門用語だ。
その亭主役は午後だと言った真希達はやがて順番になり、早速ドレスを選び始めている。
「お前がいるとパニックになるから帰ってくれ」
「えーっ、どうして? 私だってドレスが着たい」
「胸が大きい人だったら、オフショルダーのドレスもおすすめですよ。胸にはパットが入っているからブラジャーも取っちゃって、大きく背中が開いたドレスなんかもいいかもしれない」
女子部員は俺の悲鳴に近い抗議に構うことなく、真希達のドレス選びにアドバイスをする。
「オフショルダーで背中が開いたドレスってありますか?」
「ありますよ」
「じゃあ、それにします!」
真希の友達もそれぞれ選んだドレスを持って裏方へ行く。表は既に真希が来ている噂を聞きつけた男子が人垣を作っていた。しばらくして、真希が肩を出して、背中も大きく開いたドレス姿で表に出て来た。
露出の多いドレスに柔道の女子部が造花で作ったブーケを持ち、イヤリングやペンダントのアクセサリーをつけた真希は人間離れした清純な美しさで見る者を魅了する。
おおおというどよめきとともに、スマホでシャッターを切る者や動画を取る者で真希はぐるりと取り囲まれた。
「写真はおひとりで取られますか? 良ければ相方の用意もありますが」
「私、高良と撮りたい!」
「お前、俺はタキシードじゃないんだぞ」
「そんなの関係ないもんね」
真希は俺の腕を組み、教会内に設けられた写真スペースに連れて行こうと引っ張った。
真希の胸の谷間がチラ見えして、俺も半ばパニックだ。
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