『ゴミ漁りの姫』と蔑まれた私は、ガラクタから国宝級マジックアイテムを作り出せる【解析】スキル持ちでした。家を追い出されたので、路地裏で道具屋を始めたら、なぜか聖女様や国王陛下が常連になりました。

☆ほしい

第1話

私の名前はセレスティア。アルベイン公爵家の三女だ。

そして、家族からは『ゴミ漁りの姫』と呼ばれている。

理由は、私がガラクタを集めるのが好きだから。

今日も私は、公爵家の広い庭の隅で、土に汚れた金属の欠片を拾っていた。


「セレスティア、またそんな汚いものを拾って。公爵家の娘としての自覚が足りないのではないですか」


冷たい声とともに、私の影が長くなる。

振り返ると、美しいレースの日傘を差したお母様が、眉をひそめて立っていた。

その隣には、一つ年上の姉であるイザベラ姉様もいる。


「申し訳ありません、お母様。ですが、これはただのガラクタでは……」

「言い訳は結構です。あなたのような魔力なしが、いくらガラクタに言い訳をしても無駄なこと。アルベイン家の恥さらしめ」


お母様の言葉は、いつも鋭い氷のようだ。

私の心に突き刺さる。

姉様も、扇で口元を隠しながら、くすくすと私を嘲笑った。


「本当に。どうして我が家に、あなたのような出来損ないが生まれてしまったのかしら。お父様も嘆いていらっしゃいましたわよ」

「……申し訳、ありません」


私は、拾った金属片をきゅっと握りしめる。

これ以上、何も言えなかった。

この家では、魔力を持たない私は人間として扱われない。

剣の才能に恵まれた兄様や、強大な魔力を持つ姉様とは違う。

私は、いない者として扱われるのが当たり前の日常だった。


食事も、家族と同じテーブルで摂ることは許されない。

いつも厨房の隅で、冷たくなった残り物を食べるだけ。

与えられた部屋は、北側の陽の当たらない物置のような場所だ。

それでも、私はこの家で生きていくしかなかった。


「さっさとそれを捨ててきなさい。そして、お客様の目に触れないよう、自室でおとなしくしているのですよ」

「はい、お母様」


私は素直に頷いて、その場を離れた。

もちろん、拾った金属片を捨てるつもりはない。

これは私の宝物だから。


自室に戻ると、ベッドの下に隠してある木箱を取り出す。

中には、私が今まで拾い集めてきたガラクタがたくさん詰まっていた。

錆びた歯車、割れたガラス玉、何の模様か分からない石版の欠片。

どれも、他の人が見たら眉をひそめるようなものばかりだ。

でも、私には、これらがとても価値のあるものに見える。


私には、生まれつき不思議な能力があった。

【解析】というスキルだ。

このスキルを使うと、物の情報が頭の中に流れ込んでくる。

例えば、今拾ったばかりの金属片。

これに意識を集中すると、脳内に文字が浮かび上がってくる。


《名称:古代魔導合金の破片》

《素材:ミスリル、オリハルコン、星の砂》

《状態:劣化(大)。魔力循環回路の断絶》

《最適な加工法:不純物を魔力で焼き切り、再精錬。循環回路を再接続することで、魔力伝導率が飛躍的に向上する》


ほら、やっぱり。

ただのガラクタじゃなかった。

これは、古代文明で作られた、とてつもない合金の一部なんだ。

今はただの汚い金属片でも、正しく加工すれば、すごい魔道具の材料になる。


私は、この【解析】スキルのおかげで、ガラクタの本当の価値が分かる。

だから、ガラクタ集めはやめられない。

いつか、このガラクタたちを、本来あるべき姿に戻してあげたい。

そう思うだけで、胸が温かくなる。

この薄暗い部屋での、私のささやかな楽しみだった。


その日の夜のこと。

夕食の時間が終わり、私が厨房でパンの耳を齧っていると、兄であるアレクシス兄様がやってきた。

兄様は、王国騎士団に所属するエリートだ。

その金色の髪と青い瞳は、アルベイン家の誇りだといつもお父様が自慢している。


「セレスティア。貴様、まだこんなところにいたのか。うろちょろされると目障りだ」

「申し訳ありません、兄様。すぐに部屋に戻ります」

「待て。その前に、少し付き合え」


兄様はそう言うと、私の腕を乱暴に掴んだ。

そして、有無を言わさず中庭へと引きずっていく。

中庭には、訓練用の的が設置されていた。


「貴様、そこに立っていろ」

「え……?」

「俺の新しい魔法の的にしてやる。魔力のない貴様には、ちょうどいい役目だろう?」


兄様は、楽しそうに笑いながら、杖を構えた。

杖の先から、炎の渦が生まれる。

私は恐怖で足がすくんだ。


「や、やめてください、兄様……!」

「うるさい。これは命令だ。少しでも動いたら、どうなるか分かっているだろうな?」


兄様の目は、本気だった。

これは、ただの嫌がらせじゃない。

本当に、私を的として魔法を撃つつもりなんだ。

これまでも、兄様の気まぐれで、小さな魔法をぶつけられることはあった。

でも、こんなに大きな魔法は初めてだ。

あれに当たったら、ただでは済まない。


「さあ、アルベインの恥さらし。少しは家の役に立てよ!」


兄様が杖を振りかぶった、その瞬間だった。


「――そこまでです、アレクシス様」


凛とした女性の声が響いた。

声のした方を見ると、メイド長であるマーサさんが立っていた。

マーサさんは、私が幼い頃から、唯一優しくしてくれた人だ。


「マーサか。何の用だ。俺の邪魔をするな」

「旦那様がお呼びです。大事なお客様が見えられた、と」

「お客様だと?ちっ、面倒な」


兄様は舌打ちをすると、杖の先の炎を消した。

そして、私を睨みつける。


「命拾いしたな、セレスティア。次はないと思え」


そう言い残して、兄様は屋敷の中へと戻っていった。

私は、その場にへなへなと座り込む。

足の震えが止まらない。


「お怪我はございませんか、セレスティア様」

「マーサ……ありがとう。助かったわ」

「いいえ。……ですが、いつまでも、こうして助けられるわけではございません」


マーサさんの声には、いつもの優しさはなかった。

どこか、諦めたような響きがあった。

私は、彼女の言いたいことが分かった。

この家には、もう私の居場所はないのだと。


翌日。事件は起こった。

お父様の書斎から、アルベイン家に代々伝わる『炎帝の腕輪』がなくなったのだ。

屋敷中が大騒ぎになった。

そして、真っ先に疑われたのは、私だった。


「セレスティア!貴様が盗んだのだろう!」


お父様の怒鳴り声が、ホールに響き渡る。

私は、家族全員から冷たい視線を向けられていた。

姉様の部屋から、『炎帝の腕輪』が見つかったのだ。

もちろん、私のものではない。

姉様が私の部屋にこっそり隠したのだ。


「違います、お父様!私は何も盗んでいません!」

「しらを切るな!日頃からガラクタばかり集めている貴様なら、やりかねんことだ!」

「そうですわ、お父様。きっと、自分のガラクタと一緒に、どこかに売り払うつもりだったに違いありませんわ」


姉様が、泣き真似をしながらお父様に取りすがる。

お母様も、兄様も、私を犯人だと決めつけていた。

誰も、私の言葉を信じてはくれない。


「もうたくさんだ。貴様のような娘は、アルベイン家に必要ない」


お父様は、冷酷な声で言い放った。


「セレスティア・フォン・アルベイン。今この時をもって、貴様を勘当する。二度とアルベイン家の敷居を跨ぐことは許さん。さっさと出ていけ!」


勘当。

その言葉は、私にとって絶望ではなかった。

むしろ、やっとこの苦しみから解放されるのだという、安堵感すらあった。

私は、何も言わずに頭を下げた。


「……分かりました」


そして、屋敷を振り返ることなく、門をくぐった。

私が持っていくことを許されたのは、今着ている服と、ベッドの下に隠していたガラクタの入った木箱だけ。

それでも、私には十分だった。

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