子守唄
- ★★★ Excellent!!!
気味な子守唄から始まる導入が、読者を一瞬で夜の気配と畏れに引き込んでゆき、とても印象的でした。
姿を現さず、ただ障子越しに声と影だけで迫ってくるその存在感は、派手な恐怖ではなく、じわじわと心の底を撫でまわすような不穏さに満ちています。
また、物語が進むにつれて、主人公の心が揺らいでいく様が巧みに描かれていたことにも惹かれました。
初めはただ怯え、必死に“寝たふり”で拒んでいたはずの主人公が、次第にその訪問を待つような、あるいは安らぎすら覚えているような雰囲気へと変化していく。
最後に到り、これは主人公が自ら受け入れてしまったのか、それとも妖狐の妖力に魅入られ、知らぬ間に心を侵食されていったのか――
その曖昧さが、読後にふと冷たい余韻を残し、非常に面白く、そして恐ろしく感じました。