第3話「愛はつまらない?」その1
~都内某所の結婚式場~
「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も……富めるときも貧しいときも、これを愛し、これを敬い……そしてそ~して~! 死がふたりを分かつまで愛し合うことを誓いますか?」
神父がそう問いかけると。
「誓います!」
新郎と新婦は目に涙を浮かべながら順番にうなずく。
二人は愛を誓い合い、指輪を交換して口づけを交わした。
「おめでとう! お幸せに!!」
会場から祝福の声が飛び交う。新郎新婦は幸せそうに笑いながら、たくさんの人にお礼を述べていた。
集まった人たちの拍手がひと際大きくなり、会場が一体となっていく。
「真人兄ちゃん、琴音姉ちゃん、おめでとうっ!!」
中でもひと際大きな声で叫んでいるのは、ラブイエローこと黄島電輔だった。
彼は今日、彼が実の兄のように慕ういとこ、岡本真人の結婚式に来ていた。
真人は電輔の声に気付くと笑顔で手を振り返した。
披露宴で真人と、新しく彼の妻となった花嫁の͡琴音が電輔の席に挨拶に来た。
「電輔、忙しいのに来てくれてありがとな。お前が来てくれて本当に嬉しいよ」
「なに言ってんだよ~。真人兄ちゃんと琴音姉ちゃんの結婚式だぜ? 俺が一番楽しみにしてたと言っても過言じゃないんだから!」
電輔は手にしたグラスを2人に向け、ニカッと白い歯を見せた。
「電輔くんには、何回も喧嘩してるところとか見せちゃって心配かけちゃったもんね」
琴音は真人と顔を見合わせて自嘲気味に笑った。
「2人ともいとこ同士なんだから、もっと仲良くすりゃあいいのにってさ」
「いとこ同士だからこそ、お互い気心が知りすぎててな」
そう、真人と琴音はいとこ同士で結婚したのだ。つまり電輔も含めて3人ともいとこの間柄で、真人と琴音は同じ年齢で、電輔とは8つ離れていた。いとこ同士ということもあり、3人は親戚の集まりで時折顔を合わせていたが、2人がずっと付き合っていたことを知っていたのは親族の中で電輔だけだった。
いとこ同士の恋愛ということで、なかなか誰にも相談できないなか電輔は2人の良き相談相手であった。
「──ずっと2人の不安を見てきた分、今日の笑顔が本当に眩しかった。
真人兄ちゃんも、琴音姉ちゃんも、おめでとうっ!!」
「ありがとう。冷たい反応をされたり、最初は親族の中でも反対する人がいたけど、電輔のおかげで何度も励まされたんだ。本当にありがとう」
真人は電輔に深々と頭を下げた。琴音も、
「本当にありがとう。電輔くんのおかげで私は今もこうして真人くんと一緒にいられてるから」
と感謝の言葉を伝えるのだった。
この日、電輔にとって人生で最も嬉しい1日となったのだった。
~数日後 都内某所~
「へぇ、いとこ同士で結婚かぁ! 親族同士も顔見知りが多いだろうし、結婚式はさぞ盛り上がったんじゃない?」
駿也が電輔に尋ねる。
テーブルの間を店員が行き交い、カトラリーが触れ合う音が心地よく響く。
――都内のごく普通のファミレスで、ラブレンジャーの5人はランチを楽しんでいた。
「そうなんだよ! いや、最初はいとこ同士だからって反対してた親族も結構いたんだけどさ。結局あの2人の愛のパワーの前には、誰も何も言えなくなったね」
電輔は笑いながら話す。
お冷をグイッと一口飲んだ炎児。
「っぱ愛の力は無敵だよなぁ!」
腕を組みながらうんうんと頷く。
「結婚かぁ……素敵だなぁ……」
ウットリとした表情で桜は呟く。そんな桜の顔を覗き込むのは水希だ。
「桜さんは好きな人とか、結婚したい人いないんですか?言い寄って来る人は多そうですけど……」
水希の発言に桜ははにかみながら手を顔の前でブンブンと振る。
「え~そんなことないよぉ。私なんて全然モテないよぉ」
「ま、桜は放っておいたらダメ男ホイホイになりそうだからな。悪い男にひっかからないように俺たちが注意してやんねぇと!」
炎児が少し茶化すように言うと、桜は頬をぷく~っと膨らませた。
「もぉ~! 炎児の意地悪っ! 私だって気をつけますぅ~!!」
「ぷっ……。ごめんごめん」
そんな会話が繰り広げられている中、5人に秩父総司令から連絡が入る。
「ランチ中にすまん! ……よりによってこういう時に限って現れる……。街にヨークが出た、すぐに急行してくれ!」
「はい! すぐに行きます!」
駿也は5人を代表して電話に応答する。
「ったく、ディボーチ帝国の奴らめ! せっかく幸せな話に花を咲かせてたってのによ! とにかく行くぜみんな!!」
炎児の言葉で4人は立ち上がったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
OP
(OPテーマ:「愛力戦隊!ラブレンジャー」)
(作詞:ラブレンジャー 歌:ラブレンジャー)
「くじけそうな時だって~♪ 逃げだしそうな時だって~♪」
「みんな~♪ がいるから~♪ 大丈夫だよ~♪」
「強大な欲望が迫るとき~♪ 愛が包むさ~♪」
「ラブリーガン♪ ラブリーソード♪」
「いっせーのーで~♪ ラブ注入~♪」
「愛を伝え合おうよ」
「悲しみも~♪ 苦労も~♪ 愛のハートで~♪」
「愛さえあれば~♪ 負けないさ~♪」
「ラブ~♪ ラララ~♪ ラブ♪ ラララブ~♪」
「キュンときて~♪ ほんわかして~♪ キュウっとなって~♪」
「ギュッとして~♪ ぽかぽかして~♪ チュウっとして~♪」
「無限の愛を~♪ 力に変えて~♪ 闇を払え~♪ ラブレンジャー♪」
「愛~♪ 愛~♪ 愛~♪ 愛の戦士~♪ 愛力戦隊~♪ ラブレンジャー♪」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~ディボーチ帝国 作戦会議広間~
「むっひょ~! にょっほ~! 今日も僕ちん、か・わ・い・い~♡」
手鏡を見ながらディボーチ帝国幹部の1人、ハイパは悦に浸っていた。そしてその大きく突き出たお腹を擦りながら、
「あ~、お腹空いちゃったぞ~! ぴよぉ~!誰か! 何か美味しいもの持ってきてちょ~!」
と叫ぶのであった。
「うるさいなぁ、お前ちょっとは体を絞ったらどうなの? そんなに太っちゃってさ」
幹部の1人、エヌはネイルを塗りながらハイパを横目で見た。呆れたようなため息交じりの声だ。
「なに言ってるんだいエヌちゃんったら! 僕ちんが太ってるんじゃなくて、周りが痩せすぎなのさ~ん」
「いや、さすがにその腹じゃあ言い訳として無理があるだろ……」
ネイルに息を吹きかけ乾かしながら、エヌは呆れたように呟いた。
『エヌ、ハイパよ……ディボーチ帝国の親愛なる先兵よ……』
広間全体に響き渡るその低く冷たい声に、2人の幹部はすぐさま中央の石像の前に膝を着く。
「マモン様……お声をかけていただき、光栄でございます……」
エヌは震える声でそう言うと、石像に向かって頭を下げた。ハイパもそれに倣って頭を下げる。
するとマモンと呼ばれた石像からはまた低い声が返ってきた。
『ラブレンジャーとやらに随分と手を焼いているようだな……エヌ、ハイパよ、お前たちでは役不足だったか?』
「——!! も、申し訳ございません、マモン様! 次は私の部下である、コントーロを送り込もうと考えておりました」
「ぼ、僕ちんだって、ビボーナの能力を活かした作戦を立案していたのであります!」
『ほう……。2人ともやる気はあるようだ。ではハイパよ、今回は貴様の考える作戦とやらを見せてもらおうか』
「はっ! かしこまりました」
ハイパは敬礼すると、エヌの方に視線を向け自分が選ばれたことを誇るように舌を出した。
「——っ! お前、調子に乗るなよ……!」
エヌは悔しそうにハイパを睨みつけるが、マモンの前でケンカなどできるはずもなく、その怒りをグッと堪えた。
『よし、やってみせよ』
冷徹に告げるとマモンの石像の目の光が赤から黒に変わる。マモンからの通信が終わった合図だ。
「かしこまりました~ん♡」
ハイパはニカッと不気味な笑みを浮かべて、小躍りした。
「ふん……せいぜいビボーナに頑張ってもらうことだね。私は今回、じっくりと見学させてもらうとするよ」
エヌはそう言い残し、ハイパに背を向けた。
「あらら~、エヌちゃんったら、僕ちんが活躍して嫉妬してるのかなぁ? んもう! ほんとお子ちゃまなんだからぁ♡」
思わぬハイパの挑発にエヌは我慢の限界だった。
「もういっぺん言ってみなよ、その膨らんだ腹の中身が飛び出すことになるけど?」
エヌはハイパの首元を掴んだ……が、その体は黒い粒子になって彼女の手を離れる。
「そんなに怒らないのぉ~。エヌちゃんは可愛いんだからぁ~、もっとお淑やかにしてなきゃダメだぞぉ~」
「このっ……!」
エヌはハイパを捕えようとするも、またも黒い粒子となって彼女の拳は空を切るのだった。
「じゃあねぇ~♡ "マモン様にえ・ら・ば・れ・た・"僕ちんの活躍、楽しみにしててねぇ~!」
そう言い残すと粒子のまま、ハイパはその場から消え去った。エヌは怒りでワナワナと震えながら拳を握りしめていたが、フッと小さく笑みを落とすと、くるりと踵を返して自室へと戻るのだった。
~都内某所にある教会~
「あなたは健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も……富めるときも貧しいときも、これを愛し、これを敬い……そしてそ~して~! 死がふたりを分かつまで愛し合うことを誓いますか?」
新郎新婦が恥じらいながら視線を合わせる。参列者たちも幸せそうな2人を祝福している。が、その時だった——。
「アーッ!!」
ヨークたちが式場に飛び込んできたのだ。
「きゃあああああっ!」
「うわあぁぁぁっ!!」
参列者たちからは悲鳴が上がる。幸せなはずの結婚式会場は、恐怖の舞台へと変わってしまう。
「そこまでだ! ディボーチ帝国!!」
通報を受けたラブレンジャーたちが急行したのだ。
「け、結婚式を……。新郎新婦とその親族、友人たちの幸せな時間をメチャクチャにしやがって……。ぜってぇ許さねぇ!」
怒りに震えながら叫んだのは、電輔だった。
先日の真人と琴音の結婚式のこともあって、ヨークたちの行為を特に許すことができなかったのだろう。
電輔に続いて他の4人も、いつも以上に闘志の籠った瞳をしていた。
「あらにょ~っと! みなさんお待たせ~! みんなのアイドルこと、僕ちんハイパ♡ ここに見参~!」
空間を割いて現れたのは、まったく空気が読めていないディボーチ帝国幹部のハイパだった。
そんな能天気なハイパの声に、式場はシンと静まり帰り、人々は唖然としていた。
が、ラブレンジャーたちは気を取り直して彼に叫ぶ。
「ハイパ! またお前の仕業か!? 結婚式を襲って人々を恐怖に陥れるつもりか?」
「ほんと最っ低! 結婚式はね、2人やその家族たちにとって一生の思い出になる大切な日なんだよ? それを台無しにするなんて……。そんな酷いことするの、絶対許さないんだから!」
「そうだ! そうだ! 結婚式を邪魔する奴は、この俺が許さねぇ!!」
と5人はそれぞれ怒りの言葉を彼にぶつける。
しかし当のハイパは、困ったように首を傾げる。
「うぅ~ん? おっかしいなぁ~、ビボーナにはまだ作戦のことは伝えてないし……。はっ! まさか、エヌのヤツが抜け駆け……でもコントーロの仕業でもなさそうだし……」
ぶつぶつと独り言を繰り返しているハイパ。
「ボクですよ、ハイパ様。お久しぶりです、相変わらず地球は退屈なところですね」
突然聞こえてきた声にラブレンジャーたちは、そちらの方を振り返った。
「え~っと! あ、ボーリンかぁ! いや久しぶりぶり~♡」
ハイパは手を顔の前でこすり合わせる珍妙なポーズで、ボーリンと呼ばれた怪人に話しかけた。ボーリンの顔はマネキンのようで、体はてるてる坊主のようになっている。
「でもでもぉ! 今回は、僕ちんがマモン様の命令を受けてたから僕の番なんだぞ~? いったい誰の命令で動いたの~?」
ハイパはボーリンの周囲をくるくると回りながら、首を傾げる。式場には彼の軽快なステップの音が響き渡っていた。
その時だ——。
「私だ、ハイパ。相も変わらず、変わったやつだなお前は」
静寂を裂くように、硬質な靴音が教会のバージンロードに響いた。
視線の先、花弁が舞う扉の陰から、ゆっくりと金髪の男が姿を現す。
白い祭壇の光すら彼の影に飲まれるようで、雰囲気は一瞬で凍りついた。
「だ、誰だ!?」
ボーリンに続いて現れた新たな敵と思われる男に、炎児は動揺を隠せない。
「……恐らくですが、ディボーチ帝国の幹部、ディスペラドではないかと思います」
彼女の声には、わずかな震えが混じっていた。
駿也もうなずき、敵を睨みつける。
「ディスペラド……あいつもハイパやエヌと同じ幹部か……。よくもまぁ次から次へと湧いてくる……」
ディスペラドは微笑むでもなく、怒るでもなく、何も感じていない目でラブレンジャーたちを見渡した。
「貴様らがラブレンジャー、か」
その声音だけで式場の空気が一段冷える。
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