さくらいろ、メロディ…♪ 【短編小説】

虹うた🌈 

第一話 櫻が霞む公園で――


 夢―――?


 かすむほど桜に埋もれた公園で、あの女性ひとをみた。


 死んだはずのあの女性ひとは確かにそこに居て、精一杯に背伸びしながら手を伸ばしていた。遠く遠く青空に咲く白い花に、手が届くように―――







天ノ川あまのがわ……?」


 声をかけられ、ハッとしました。振り向いた私を見つめていたのは、クラスメイトの深山みやまくん。



「み、深山くん?」


「お――おう天ノ川。こんなところで奇遇だな」


 予期しない偶然の鉢合わせは、少なからず私を驚かせました。きっと、向こうもそうだったんだね。彼――深山くんも目を丸くしていたから、驚いていたんだと思う。所在なく前髪をいじったりしながら、私達は暫くお互いから視線を離せずにいました。


「あはっ…本当に奇遇だね。深山くんも、お花見とかするんだ?」


 なんて……ようやく私が投げかけた意味のない言葉は、彼のどちらかといえば白い頬を桜色に染めます。


「……うっせ。俺にだって、桜を待ちわびる気持ちくらいあるんだよ」


 そう言って、照れ臭さそうにを向いた彼。でも、その表情は直ぐに固まりました。その視線の先は―――そう、彼女が立っていた場所です。



「……吉野よしの……一陽かずひ



 そっか―――


 彼の驚きで大きく見開かれた目と、絞り出すように漏れ出した震える声。その声が、止まっていた私の記憶を現実へと押し戻していきます。さっきのはやっぱり、あの女性ひとだったんだね。


 暴れ出した胸の鼓動を抑え込みながら、私は振り向きました。その時の胸の中にはね。きっと、期待と不安が半分ずつだったと思うよ。




ようちゃん………ッ!」


 私には、小さく彼女の名前を紡き出すしか出来ませんでした。だって―――


 ―――確かに。

 確かにそこには、彼女が立っていたから。



 「うう……うぅぅう~」


 その瞬間、抑え込んでいた感情が一気に溢れ出してきて、全身が震えました。私は声にならない声を上げて、その場にへたり込んでしまいました。


「―――おい、天ノ川!大丈夫かよ!?」


 すぐ隣には、心配そうに声を掛けてくれる深山くん。

 それでも私―――私には―――っ!


 「うぅぅう~……!陽ちゃん、陽ちゃん~ぅう………!」


 溢れ出してしまった感情を、止めることなんて出来やしなかった。


 だけれど、あの女性ひとは幻のように私だけを一人残し……涙の海の中に……消え……ちゃった。





    🌸  🌸  🌸  🌸  🌸




「突然泣き出すから、ビックリしたよ」


 公園のベンチ―――グスリと鼻をすする私の横には、深山くん。こんなこと考えて申し訳ないけれど、深山くんがあの女性ひとだったらなんて……つい、考えてしまう。でも……そんな失礼な私に、彼はずっと寄り添ってくれました。




「………少し、落ち着いた?」


 小さく頷いた私に、彼が優しい眼差しを向けます。


「ふぅ~………。まぁ……仕方がないか。お前と吉野、仲良かったもんな。

 ………なあ、天ノ川。俺さ、ずっとお前に伝えたいと思っていた事があったんだ。でもその前に……お前と吉野のこと……聞いてもいい?―――二人の事、俺……知りたいんだ」



「うん―――分かった」


 そして彼の真っ直ぐな眼差しに押されるように、私は陽ちゃんとの想い出を―――胸にしまっていた想いを、ポツリ…ポツリ…と話し始めます。

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