ニューヨークの真実
第6話 魂の共鳴
【運命のハネムーン】
テオとユキは、熱狂の渦巻く日本を離れ、ハネムーンとしてニューヨークへ向かった。
この旅の表向きの目的は愛の成就だったが、真の目的は、ジョン・レノンの魂が最後に過ごした地で、テオの「生まれ変わり」を公式に確認することだった。
ニューヨークのメディアは、アジアから現れた 「ジョン&ヨーコ再来カップル」の到着で大騒ぎとなった。
セントラルパークにある「ストロベリー・フィールズ」を訪れた二人の姿は、瞬時に世界中に配信された。
そして、ユキの尽力により、ついにテオの運命を決定づける対談がセッティングされた。
相手は、オノ・ヨーコ氏の長年の右腕であり、その芸術的・精神的な遺産を継ぐ人物、ミズ・リョウコだった。
【 孤独なスタジオの邂逅(かいこう)】
対談の場所は、かつてジョン・レノンがレコーディングを行った歴史的なスタジオの奥。
部屋には、古いグランドピアノと、年代物のオープンリールテープレコーダーだけが置かれていた。
テオは、リョウコと対面した。彼女は、深い知性と静かな悲しみを湛(たた)えた、知的な老婦人だった。
「ようこそ、テオ・チャールズさん。そして、ユキ・オザワさん。」
リョウコは、静かに挨拶した。「私たちは、あなたたちを『東洋の子(オーシャン・チャイルド)』と、『運命のナビゲーター』として迎えます。」
テオは、警戒心を抱きながらも、ピアノの前に座るよう促された。
【日本語で語られる真実】
リョウコは、テープレコーダーを起動させた。静寂を破って流れてきたのは、ジョン・レノンがピアノを弾く「イマジン」のシンプルなメロディだった。
「これは、彼が最後に弾いた録音です。最後の和音、Cメジャーコード(ハ長調)は、あるべき音が一つ欠けた、不完全な響きで終わっています。
彼(ジョン)は、『孤独な愛の真実』を表現するため、安らぎを意味する音を、意図的に未完成のまま残しました。」
テオは、録音に耳を傾けた。
彼の魂(ジョン)は、その未完成な響きが、
一つの言葉と結びついていることを知っていた。
リョウコは、テオに語りかけた。
「暗殺の数日前、彼とヨーコは、日本の茶室で『愛と安らぎ』について語り合いました。彼は、『真の安らぎ、最も美しい場所』を、『世界で最も遠い星』と、日本語で喩(たと)えました。そして言いました。『愛は、最も孤独な場所からしか、生まれ変われない』と。」
「テオ・チャールズさん。その時、彼が言った、『最も美しい安らぎの地、最も遠い星』を指す最も個人的な日本語は何ですか?」
テオは、その質問を聞いた瞬間、ジョンが追い求めた『安らぎの地』が、テオ・チャールズが愛する女性サキと過ごし、そして失った『場所』を指すと悟った。
テオは、ゆっくりと口を開き、完璧な日本語で答えた。「その『最も遠い星』は、『故郷(ふるさと)』です。」
【魂の共鳴(証明の瞬間)】
リョウコは、涙を流しながら頷いた。
「彼が最後に、ヨーコに送った、『愛の始まりの場所』を示す言葉です。」
リョウコは、深く息を吸い込んだ。
「テオ・チャールズさん。彼がこの演奏を未完成のまま残した時、私にこう言いました。
『愛は、安らぎのCメジャーでは完成しない。孤独と悲しみの音を加え、Cm7(シーマイナーセブン)になった時、初めて人類への真のメッセージとなる』と。」
リョウコの声には、45年間、誰にも語られることのなかった秘密の重みが宿っていた。
「そのCm7は、彼が孤独な場所から生まれ変わる鍵です。今、あなたがピアノで、そのCm7を、彼の欠落した安らぎの音に組み込んでください。」
テオは、ピアノを弾き始めた。
彼が弾いたのは、ユキと魂のレッスンの中で見つけた、甘く憂鬱な和音、Cマイナーセブンス(Cm7)だった。
Cm7は、テオが失った故郷の悲しみを体現する和音であり、同時にジョンが未来に残した唯一の答えだった。
テオは、そのCm7を、ジョンの録音の欠落していたCメジャーコードの空白の箇所に、そっと組み込んだ。
その瞬間、不完全だったメロディは、悲しみと孤独を超越した深さを伴う、新しい、完成された響きを持った。ジョンの魂が「孤独な愛」として残した空白は、テオ・チャールズの「故郷で失った愛の記憶」によって、永遠に埋められ、昇華されたのだ。
テオが演奏を終えると、スタジオのスピーカーから、録音されたジョン・レノンの生前の声が流れ始めた。
"Imagine all the people sharing all the world..."
テオは、完成された新しい和音(Cm7)で、再びピアノを弾いた。
ジョンの力強い歌声と、テオの魂の完成された演奏は、45年の時を超えて、完璧なデュエットを形成した。
ジョンの歌声は、テオの演奏によって、初めて孤独の鎖から解放され、テオの魂は、ジョン・レノンという運命を完全に受け入れた。
リョウコは、テオの生まれ変わりが、単なる奇跡ではなく、愛の必然であることを公に認めた。
世界中のメディアは、リョウコによる
「魂の共鳴」の証明と、テオの日本語の愛の記録を、「21世紀最大の奇跡」として大々的に報道した。
【 最終メッセージ】
対談を終えたテオとユキは、熱狂的な報道陣を前に、新たなメッセージを発表した。テオは、日本語で、そしてユキは英語で、世界のニュースに語りかけた。
テオ:「私は、ジョン・レノンではない。私は、孤独を知り、愛を失った男、テオ・チャールズだ。しかし、私の孤独は、今、45年前の彼の孤独と結ばれた。孤独を知る者こそが、真の愛の安らぎを想像できる。」
ユキ:「テオと私は、二重の愛の運命を生きる。私たちの使命は、悲しみを知る愛こそが、世界を救う唯一の力だと証明すること。彼の完成させた新しいイマジンが、戦争と不信に満ちた現代に、45年越しの平和へのメッセージを届けるでしょう。」
テオとユキは、世界を動かす運命のシンボルとなった。
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