第2話 変身/library

 どうやらこのゲル状生物に攻撃されたときに呼吸する能力が低下したらしい。大振りの呼吸ばかりをして、ため息のように息をついている。


「お前……炎に弱いんだったよなァ……」


 松明が地面に落ちる。パチパチ……と炎が燃え広がっていく。


「まぁ……死なんだろうな……」


 ゲル状生物は人間の姿になった。

 雑学眼鏡の少年──ユリウス・コエロフィシスは驚いた。


「避難所でこいつの話を聞いたんだ……。国際特別警察機構の連中がいてなァ……ゲル状のもの、とか……こうして形を変えた物を……魔法生命体……って、言う事にしているらしい……ハァ……」

「む、無理に喋らなくて良いよ」

「喋らんと落ち着かない……」


 魔法生命体と呼ばれる目の前のヒト型進化の生物は〈一号〉になるらしい。ユリウスはロジャーを見た。

 斧を持つ手が震えている。きっととてつもなく恐ろしいのだろう。

 それなのに無理をして、身体を押して自分を庇うように前に居る。

 たった十五歳の少年が、そうしている。

 強い恨みもあるのだろうけれど、それだけではない。

 きっと、そういう生き方ばかり選んでしまう人なのだろうと分かる。

 絶対に悪人にはならないのだと分かってしまう。


「火が広がってる……」

「…………」

「セントロくん……」

「大丈夫」


〈一号〉が駆け出すと、ロジャーは斧を構えた。〈一号〉の横腹に斧を振るうと、怯んだ一瞬の隙に腹を蹴り、張り飛ばす。

 そして、その先に斧を投げ飛ばした。

 すかさず、ロジャーは拳を握り両腕を顔の前でクロスさせた。

 すると、炎ではない黒い揺らぎが生まれ、全身を包みこんでいく。

 セントロ家に代々伝わる処刑人の正装──……。

 クロスさせた腕を真っ直ぐにするように開く。その際手は開かれる。


「クキキ……業人……!」


 胸に黒い石が現れ銀色の怪人に……。

 その姿に疑問を抱かせる隙もなくロジャーは〈一号〉に殴りかかる。

 炎に当てられて、黒い複眼が赤く灯っていく。

 本棚を薙ぎ倒しながら、〈一号〉とロジャーの戦いは繰り広げられる。

 拳を強く打ち付ければ〈一号〉はそれを対応する腕で受け流し勢いを乗せたその拳を腹に叩き込む。怯む隙も生まず、ロジャーは〈一号〉の両腕を掴み腹を踏みつけるように蹴り落とした。

 張り飛んだ隙に斧を拾い上げる。


「ハァ……ハァ……」


 息切れ。


〈一号〉はそれを隙と見て、飛び掛かる。

 斧で〈一号〉の拳を受け止めてから、頭に叩きつける。

 〈一号〉はその結果に怒りに満ちたような絶叫をあげる。

 そうしていながら、脚部に高出力のエネルギーを蓄積させていくのを見るとロジャーの脚部も黒く染まり出した。

 両者ほぼ同時に脚を振るい、互いの身体に蹴りがぶつかり合う。


「クキキ!」

「最後に言っておく……俺の身体は……すごく、強い……」


〈一号〉は爆散した。


「ハァ……ハァ……」


 ロジャーは変身を解除させると、ひときわ大きな深呼吸。

 それをしてから、ユリウスのほうに駆け寄って抱え上げた。


「避難……しようか……」

「は、はい……」


 胸が近い。心音が聞こえる。

 とても弱い、死にかけの音。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

LAUGH 蟹谷梅次 @xxx_neo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ