8.ボードには、色々と文字が書かれた紙が張り出されていた。

俺には、それらは読めなかった。異世界の文字だったからだ。


「なぁ、サリスちゃん、これ読める?」


サリスちゃんに聞いてみる。


「えっ?は、はい、読めます」


「そうなのか、この世界は識字率が高いんだね」


「えっと・・・教育を受けた訳じゃないですけど、村にあった、色々な紙に書かれている文字を自己流で読んでいたら、読める様になりました」


照れくさそうにぽりぽり搔きながら、サリスちゃんは言った。


「マジか!自己流で!!凄い、。サリスちゃん、凄い!」


俺は、サリスちゃんの頭をぽんぽん撫でた(セクハラに当たらない事は、先ほど確認済みだ)。


「あっ・・・えへへっ!はい、有難うございます!」


サリスちゃんはにこにこ微笑んだ。


「えっ・・・とぉ・・・早速、ボードの紙を読みますね。これらは、このギルドに集められた依頼の内容の紙みたいです。・・・えっと・・・『排水溝のドブさらいをしてくれ・・・報酬は3000エソ。山にある薬草を採取してくれ・・・5000エソ。犬の散歩をしてくれて・・・2000エソ・・・その他、似た様なものが諸々です・・・」


「そっかあ・・・。ま、お金に困ったら、依頼を受けるのも、良いかもな。有難う、サリスちゃん」


「はい・・・っ!」


俺がお礼を言うと、サリスちゃんは元気よく返事をした。


「さて、俺達はこれから、どうするかな?・・・腹も減って来たし・・・」


「そ、それなら、どこか、食べれる所に行きましょうよ!」


サリスちゃんは軽く握り拳を作って言った。


「あ・・・、いえ、食事なんて・・・どうですか?」


顔を赤らめて、そう、言い直す。・・・もしかしたら、お腹空いているのかもしれない。


「ああ、いいよ、行こう、どっか飯食べれる所」


「はいっ!」


ぱああっと顔を明るくして、サリスちゃんは答えた。





村の市場をてくてくと歩く。


周囲には、色んな露店がある。


果物や野菜らしきものを売っている露店、肉を売っている露店。武具の様なものを売っている露店、etc・・・。


きょろきょろとサリスちゃんは辺りを見回す。


「どうしたんだ?サリスちゃん。」


「えっと、私・・・人間の村は初めてなので・・・ええと・・・迷ってしまいまして・・・」


「そっかぁ、それじゃあ、あの店はどうかな?何か食べさせてくれるでしょ?」


俺は、肉と、パンの様なものが描かれた看板のある店を指さす。


「あっ、ああっ・・・!ええと・・・、ちょっと高そうですよ、ここ・・・。大丈夫でしょうか?」


「さっき、ギルドで、お金・・・15万エソを手に入れたけど、これで支払い大丈夫そう?」


「えっと、それは大丈夫だと思いますけど・・・こんな高い所・・・」


「払える価格なら良いんだよ。さぁ、行こう。腹ごしらえしよう」


「あっ、はい!」


俺達は、そのメシ屋に入ったのだった。





メシ屋に入る。


すると、店員がやってくる。その店員は俺達を見ると、ちょっと驚いた顔をする。・・・ああ、俺の服は、異世界に突入した時と同じ服装。上下ジャージだ。多分、この世界の一般的な服と違うから、それで驚いたのだろう


「いらっしゃいませ」


「俺とこの子の二人。席空いてる?」


「それでは、こちらの座席をどうぞ」


店員に案内される。


この辺りの習慣は、俺の現実世界と同じみたいだ。なろう世界ってのは、都合の良い所は現実世界と同じだったりするしな。トイレとか。


座席について、きょろきょろと周りを見たり、椅子の座り心地を確認したりで、サリスちゃんは、何だか、落ち着かなかった。


「どうしたんだ?サリスちゃん?」


「ええっと、人間の村は初めてで、住居の中が珍しくて・・・つい・・・気になって・・・」


もじもじと恥ずかしそうに言うサリスちゃん。


「ああ、そうなんだ、俺も同じ気持ちだよ」


ドラクエの家の中の内装みたいなのが、今、現実として、肉眼に直で映っている。


それが、たまらなく非現実的だった。


「お客さんと、こちらはエルフだから、お客さんの奴隷かな?お客さん達は、この村初めてかい?」


店員が俺達に話しかけて来た。


奴隷・・・その露悪的なワードに俺はぎょっとしてしまう。


「あ・・・いや、奴隷って・・・」


「はい・・・、私はこの方の奴隷です。この村には初めて来ました。」


俺が言いかけると、サリスちゃんは、俺を遮って、店員に応答する。


・・・・・・・サリスちゃん、そんな簡単に、他人様の奴隷になって良いのか?


「そうかい・・・お客さん、困るよ、見た所、しっかり教育されてる様だけど、奴隷なら奴隷で首輪を付けて貰わないと、野良か飼い主かで分からなくなるよ。・・・まぁ、エルフ耳だから、誰かしらの奴隷っいてのはわかるんだが・・・」


「・・・く、首輪・・・?」


「・・・えっと、ごめんなさい、気を付けますね」


ペコリとサリスちゃんは頭を下げた。


「さて、メニューはこちらだよ。ゆっくり選んで行ってくれ」


店員は、メニュー表を、テーブルに置いて、厨房の中に入っていった。


「奴隷」・・・「首輪」・・・そのセンシティブワードが俺の頭の中にぐるぐる回っている。


俺の視界の先にはサリスちゃんという可愛い金髪エルフ。


目の前の少女の存在とセンシティブワードがどうも、俺の頭の中で整理できなかった。

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