そして、最初のプロローグ。

 『…夢を、観ている。

  観続けている。

  長い長い、この愛おしい夢を…。

  だが、はやく覚めてくれ。

  …そして、希くはこの夢の続きを…。』



 人間、ハザマ アサヒは見上げている。

 地中に広がる広い空間に多くの兵士達が灯す灯火や魔法の光に映し出される巨大な竜の姿を。


(酔い過ぎたな。何だよこんなファンタジーな夢…

 飲み過ぎたのは自覚してるし今日が楽しかった事を、

 目が醒めたら忘れてるんだろうな~…って事も、

 現時点では理解してるんだけど…長いな~…ちゃんと部屋の布団で目覚めますように…


 あ~…今日の仕事何時からだっけ?)



 ゆっくりと夢が覚めていく感覚に後ろ髪を引かれながら自分が目を開けている事を思い出し

 、混乱した記憶のカケラをかき集める。



「ちょっと戻って来なさいなぁ、アサヒ!生きてる!?意識はあるかしらぁ~!?」



 少しずつハッキリしてきた意識と視界の中で、

 同じくその竜を見上げていた女性が頬をパチパチと叩きながらコチラに話しかけている…どうやら彼女の膝の上で横たわっているらしい。


 長い黒髪で整い切った顔の、この世界で希少種の竜人と呼ばれる種族である彼女の名はリア。



「…あぁ、ありがとうリア…何が起きた…?」



 黒髪の女性、リアは混乱しているその場を単的に報告する。



「ん~、なんかわちゃわちゃしてるわねぇ~…」


 でしょうね!



「ん、この程度…なんて事ない、大丈夫。んひひ♪」


 この声は…と、起き上がろうとした途端に激痛が走る!


「だああぁぁ~!体じゅう痛ってぇぇ!」



 ある程度の記憶のピースが埋まると、次に身体中の感覚が主張を始めた。


 どうやら転んで少し頭でも打ったのだろうか?…出血は無さそうだが、めっちゃ痛い! 

 肩も、肘も膝もぉ~~~!!


 それでも頑張ってゆっくりと辺りを見渡してみると、いかにも洞窟と言った岩場だ。



「くぅ~~…、でも…まぁこの程度で…なら、運が良かったのか…?」



「ん…勘違いは無し。アナタは吹っ飛ばされて頭から落ちたの…。


 僕が咄嗟にお願いした精霊の加護が無ければ、その頭は今頃パンっと弾けたパンプキン。

 無能な人間は僕を崇め讃えればればいい、ふんっ♪」



 白いローブを身にまとい、

 のらりくらりと戦場を闊歩しながら若草色の髪をのぞかせる少女、シュミカはアサヒの頭に手をかざして治癒魔法を施した後、


「んぎゃんっ!」


 そう叫んで戦闘で跳ね返ってきた石にノックアウトされた。



「…お前だって俺同様に戦闘力はゼロだろうが!

 …てか大丈夫か?」


「…そおねぇ、心配ねぇ。

 だったら傷が治ったアンタはさっさと退きなさいな!


 アタシの膝枕は怪我人とシュミカ専用よぉ!」



 ポイッと投げ出されたアサヒを尻目に、

 リアは目をグルグルさせてるシュミカに走り寄り、抱き締めて介抱をはじめた。


「…ああ、良かった~…大した怪我はなさそうねぇ、ビックリしたのねぇ…可哀想にぃ…

 アタシが癒してあげるわぁ…ぎゅっ!」


 まったく事あるごとにイチャイチャしやがって…と、

 アサヒはシュミカの治癒魔法に感謝も感じながら更なる現状の把握に努める。


 主戦場からは離れているが、空間が広いとはいえ此処はダンジョンの中。いわゆるボス部屋のような所だ。


 三人は、とある訳ありの要人の付き添いを任されて安全な場所を探している最中であった。



「そうだ、エイナは!?」



 とある要人の存在を思い出してリアに問うと、

 

 遠い目をしたリアは仰向けの状態で膝の上に抱き抱えたシュミカの頭に向けて溜息を吐く。

 大した戦力になる訳もなく、何故かこの戦場に居て逃げ惑っているアサヒ達…。


「さあねぇ…、さっきの大きな攻撃から逃げてる間に逸れちゃったみたいねぇ…

 でもどうせ、とんでもない数の精霊に守護されてるんでしょ?


 何処かの隅で無事に護られてるんじゃないかしらぁ…。


 もぉぉ~、ちょっと疲れたからほっといて…今からシュミカをムシャムシャするのぉ…。」



(…くっ!

 この百合アタマどもが……尊くて文句が言えん……。)



 と、リアがシュミカの髪をムシャムシャするのをムシャクシャしながら眺めるアサヒの肩をポンと叩く人影。



「やれやれ…、


 あの子をお任せするよりも、あの子にアナタを任せた方が良さそうじゃないですか。


 その為にも…そろそろ本来のあの子に戻ってもらわないとですけど…。」



(…コイツ!今までどこで何して…)


 と、振り返ろうとするアサヒは身体の力が抜けてゆっくりと倒れ込む。



「おやおや、大丈夫ですかぁ?」



 と、その男は力無く横たわるアサヒに美しい顔をそっと近づけて暫くキラキラと謎の二次元粒子を撒き散らす…。


 適当なタイミングでキリッ!

 と別方向にドヤると…そっと立ち上がり、何か覚悟を決めたような面持ちで主戦場…の傍らを指差す。


 そのドヤ顔を送った先で、

 頭をムシャムシャされている無気力ローブは親指を立てて見せ、

 この変な美形に労いの言葉を送る。



「ん、良いものが観れた…好仕事なり♪」


「ふふっ、お褒めに預かりお互い様です♪

 ではでは~…この状況、次作の糧と致しましょう!」



「なぁに~どこ見てるのぉ?次は耳まで行っちゃおうかしらぁ~♪」

 


 はぁはぁ…もう辛抱たまらん…!


 といった表情のリアに、

 ぬいぐるみのように抱き抱えられた状態でシュミカはパチンと指を鳴らす。



 一瞬、場が凍りついた後…件のドラゴンはゆっくりとコチラに歩き出した。


 明らかにターゲットと見据えたであろう、アサヒと目が合った状態で。



 やがてアサヒは観念する。



(…今まで飽きっぽくて色んな職種になってきたけど…

 まさか最後は異世界で冒険者になった挙げ句にドラゴンの餌になりそうだなんてな…夢オチだよな?これ…)

 


 そして…覚める事のない夢の世界は開幕する。

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