第2話 目覚め
【野村 フユキ】
陽気なメロディが頭の近くで鳴り、俺はゆっくりと瞼を開いていく。
薄明かりな光が俺の部屋の中に入り、朝だということを知らせてくれる。
「朝が来ましたか」
そう呟きながら軽く伸びをして、俺は会社に向かう準備を始める。
鏡に写った自分の髪型をワックスで丁寧に整えながら、俺は過去を振り返る。
野村 フユキ 20歳
今では奇抜な髪型が流行っているが、俺はそういうのには疎い。
短髪のウルフカットの黒髪で少し前髪を直すぐらいだ。
175センチという、高めの身長に筋肉質な細身の身体。
子供の頃から体型にも運動神経にも恵まれ、体育の成績は優秀。
学力には恵まれなかったがな。
その後、運動神経を生かし、日本最大のトップ企業、天神【アマガミ】コーポレーションの子会社である警備会社に就職。
天神コーポレーションは、今や日本のみならず、世界最高のトップ企業で、世界中に支部を構えている。
その影響力は凄まじく、もはや一企業の範疇を超え、意に背くことは許されない。
特殊部隊に兵士、二足歩行型戦車、最新鋭戦闘ヘリ、軍用ドローンと様々な軍事力を有し、世間では天神に楯突く事は、すなわち死を意味する訳だ。
逆に言うと、天神に就職した者は幸運だ。
給料は高いし、一生安泰。
ヘマをしなければだけどな。
おっと、もうこんな時間だ。
俺はスマホを見るなり、リビングに向かう。
リビングには、ソファに座る母と、その母の膝の上で眠るミルクの姿があった。
「間に合いそう?」
テレビのニュースを見ながら、母が口を開く。
「大丈夫」
今日からまた5日間、警備会社に泊まり込みの仕事ざんまいだ。
親父は物心つく前に他界している。
俺がしっかり稼いで、ここまで育て上げてくれた母に恩返ししないとな。
ミルクもいるし。
「んじゃ行ってくる」
足早に家を出ていき、車で会社に向かう。
お気に入りの音楽を聞きながら、ニュース番組を点けた。
やっているニュースはどれも天神のニュースばかりだ。
この世界は2040年ぐらいからすっかり変わってしまった。
未曾有の大災害。
地球温暖化。
未知の病原菌。
戦争。
世界人口は年々減っていき、これに対して何も行動を起こさない国のトップに、ついに国民の怒りは爆発。
世界のトップ企業が口火を切り、大規模な世界戦争が行われる。
もはや政治家は不要。
この世界は企業が牛耳っていると言っても過言ではない。
お母さんは、昔はもう少しマトモな世界だったのにねと言うが、昔も値上がり続ける物価、新型ウィルス、政治家のやりたい放題、戦争と聞けば聞くほど、今と差ほど変わらない気がする。
政治家が支配する世界から、企業が支配する世界に変わっただけ。
そんなくだらない事を毎日考えながら、俺は仕事場に向かう。
天神系列の警備会社。
こんな田舎にまで会社を持つ巨大企業。
黒塗りの悪趣味な建物に、入口付近には天神のエンブレムが飾られている。
出社したら、まずタイムカードを押し、次にロッカールームで制服に着替える。
次に電気ショックガンや警棒と装備が着いたホルスターを腰に巻いたら準備完了。
引き継ぎの申し送りを行い、業務に着く。
毎日がこんな繰り返し。
………
時刻は夕方になっていき、仮眠をとる時間になってきた。
「そんじゃ先に休みます」
先輩にそう言って、俺は仮眠室に入っていく。
俺は直ぐに眠れないから、いつもテレビを点けて少し時間を潰す。
この時間はアニメのゴールデンタイム。
カプセルモンスターの主題歌が流れている。
「このアニメ、まだやってたんだ………」
2000年ぐらいからゲームが発売され、この2083年になっても、色褪せない名作ゲームとして新作を出し続けている。
アニメも好調で主人公の声優は今じゃ4代目にまでなっている程だ。
俺も小学生の時にやっていたが、あまりにモンスターの数が多いし、ストーリーが長すぎて挫折したっけ。
古い思い出に耽りながら、俺は簡易ベッドに横になり、ゆっくりと目を瞑る。
今は何も考えたくない休み時間。
おやすみなさい………
……
…
モンスター達よ………
目覚めよ!
頭の中に過っていく声。
何だ?
誰だ?
俺に話しかけてるのか?
凄い眠いんですけど………
あれ?
もしかして、アラーム入れ忘れた?
はっ!
俺は目を覚ました。
真っ暗な部屋。
あれ?オレンジ色の電球を点けといたはすだが………
テレビも消えてる。
先輩が消したのか?
スマホで時間を確認しようとしたが………
え?
スマホは電池が切れている。
マジかよ?!故障か?
俺はベッドから起き上がり、仮眠室の扉を開けた。
「はい?」
周りは台風でも通りすぎたかのように書類が散乱しており、人の姿がない。
警備スタッフルームには、いつも誰かがデスクにいるが、その姿もない。
天井の電気が点いては消えてを繰り返し、寂しいスタッフルームが視界に入る。
「はは……なんじゃこりゃ」
笑うしかなかった。
普通ならパニックになってるんだろうが、俺は昔から何故か動じない。
この不思議な力のせいだろうか?
俺は右腕を伸ばし、神経を集中させていく。
その手のひらに集まっていく青白い炎と腕の周囲を走る電気。
超能力なのか?
それとも俺は宇宙人だったのか?
それすらも解らないまま生きてきたこの20年。
これだけじゃない。
数メートルを一瞬で移動する瞬発力。
岩も砕く鋼の拳。
車に轢かれても無傷だった鋼鉄の身体。
最初はみんな俺と同じだと思ってたら、全然違った。
足は遅いし、身体は軟弱。
皆が皆、俺みたいではないようだ。
母にも、この力は使っちゃいけないと固く言われている。
このモンスターみたいな力を………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます