第2話 ある人との思い
母上は本当にあの男どもとともに彼女を処刑を行おうとしている。
母上の意思は誰も変えることはできない。
処刑当日は、薄暗い曇り。
民衆どもは、ほとんどがストレスを抱えて、発散するために集まってきた。それがわかるほど、「早くやってしまえ!」と勢いよく会場内に響く。
しかも、母上は、俺を呼びつけ、「次期にあなたはこの町を受け継ぐ者、あなたが処刑の合図をしなさい。」と命令を下した。
──好きになってしまったから、こんなにも悲しい気持ちになるのか。
名の知らぬ少女、愛してしまって、俺と関わってしまってごめんなさい。
会場内には活気に満ち溢れた歓声が響いた。
紫陽花の葉と花はすべて枯れてしまった。
その後、ハイドレンジアの心変わりはそう遅くはなかった。
宣言通り、彼の心は冷淡で賢い者となった。しかし、決して恋に落ちることはなかった。落ちてしまえば母上にその者が殺されるから。
トラウマはすぐに消えることはない。
「お前ももう、成人して8年が経って28歳になるのだろう。そこでリンドウ家が二か月後に舞踏会を開催すると耳にした。」
そのことに、母上は父上の前だから「行ってみたら?」と調子よく話す。
俺も、母上には逆らうことができないので「検討します。」とだけ伝え、その場を後にする。
すると突然、ついに母上は毒殺された。
それは舞踏会が始まる一か月ほど前、実は俺以外にも使用人にまで、あのような話し方、接し方をしていたそう。
そのため、使用人に毒を盛られ、死亡。
実の母が死んだというのに俺の心は開放感と喜びが溢れ出た。
「やっとあの女から解放される。」
しかし、どうしてもトラウマからは脱出できなかった。
「良かった。俺が行動する前に殺してくれて、本当に使用人よ、感謝する。」
ハイドレンジアは、こんな思いをするまでに、落ちてしまったのか。
可哀想なお方だ。
月日はあっという間に経ち、舞踏会当日となってしまった。
トラウマが頭を過るが今まで支えてくれた父上の気持ちにこたえたい。
そう思い、舞踏会の会場、リンドウ家の屋敷にお邪魔した。
貴族絡みで噂では、お見合いがメインだとか。なので、貴族が多く女にも活気に満ち溢れていた。
すると、リンドウ家のお父様が話し、開催されて、数十分過ぎた頃だろうか。
大きな門からいけ好かない女が入ってきた。
皆がその顔を見た瞬間、男どもは目にハートでもあるようにあの女を見つめ、「ヘリオトロープ女侯爵」と名を呼び続ける。
あいつがか、興味など全然そそられぬ。
むしろ、あの「私は美人で、結婚相手には困りませんよ。」と言わんばかりの顔が嫌いだ。
俺がそっぽを向き、さきほど貰ったワインを長くきれいなガラスコップに注ぎ、飲み干していると、彼女が小走りかつ、不吉な顔を浮かべ、こちらに来る。一瞬、ぎょっとしたが、冷静を保ち続けた。
「ハイドレンジア殿、初めまして。」
分かっている。お前のその笑みは、あの憎たらしい母上が、していた偽りの笑みだ。本当に反吐が出る。
「突然ですが、私の婿になってください。」
本当に突然だが、今は恋愛がメイン。
しかし、俺は心に刻んだ。
この者とは絶対に結婚などしない。
その後は、求婚を求められ、断る。これらを続けて、舞踏会の終了する寸前まで、言われた。
そのせいで、他の女性に声をかけることができず、帰宅をした。
父上には、誘う勇気がなかった。とだけ報告をして、自室のベッドで野垂れ死ぬように睡魔に襲われた。
舞踏会が終わって二日後、いつも通り、幼少期から教わっている先生の授業を受けていると突然、「お坊ちゃま、ヘリオトロープ女公爵がお見えです。失礼いたします。」と言い、扉を開けた。
そこには、文字通り使用人とともにあの女が来た。
「なにか用か、手短に済ませて欲しい、こちらには勉学に励みたい。」
嫌味全開で話すと少し嫌そうな顔したがすぐに直し、こう発する。
「舞踏会の件についてです。あのお話…。」
またその話か、お前とは絶対付き合いたくない。死んでも嫌だ。
「舞踏会ですか、あれはもうお見合いの間違いじゃないですか?」
わざと話している最中に、割り込むと、また嫌な顔をした。今度は少し長かったがすぐ戻った。
「そう捉えてもらって構いません。」
「あの話は、俺は却下したはずだが。」
「はい。ですが私はどうも諦め切れなかったので直接お会いして話そうと伺いました。」
そう会話していくと、突然気持ち悪い笑みを彼女は浮かべた。
「何をニヤニヤと不気味な笑みを零している。」
「少し考え事をしておりました。」
どうせ、気持ち悪いことでも考えていたのだろう。不愉快だ。
「そうか、無駄話はしたくない。用がないなら、もう帰ってくれないか。勉学に励みたいが、Störenfriedが居ては集中できない。」
わざと、他言語で話すと意味は分かっていないようだが、馬鹿にされていることは分かったようだ。
そういうのは分かるのだな。
この女でも。
「それでは、このお話は、また後日。私は諦めません。」
そして、ハイドレンジアは誓った。
この者とは絶対に付き合わず、最低限の関わりをし、無駄な接触を避ける。
しかし、神はヘリオトロープの味方をしたのだ。
その後、俺の家にリンドウ家の者が押し寄せ、拘束し、集会場に座らせて、ヘリオトロープが発した。
「国民の皆に告げる。ハイドレンジアは罪を犯した。一つ、女公爵である私、ヘリオトロープ女公爵を侮辱した。これは、反逆罪と私は見なした。よってハイドレンジアを我が地下牢に監禁する。」
彼女の言葉にほとんどの国民が唖然とした。
そして、俺も唖然とし、頭が混乱した。
すると突然ヘリオトロープが「ハイドレンジアよ、今夜私の部屋に来なさい。今後の話をします。」と不敵な笑みを浮かべている。
本当に恐ろしい女だ。
俺は、「わかりました。」と言うしか術がなかった。
ヘリオトロープの心のように黒く、暗い空が俺を押しつぶそうとする。
そしてヘリオトロープの家に着くなり、机に座らせられ、抵抗できないことをいいことにヘリオトロープは、俺の唇に口づけを行った。
唇を離した瞬間、俺は嘔吐と気持ち悪さが一気に出てきた。
「汚いわね。」
そう発したヘリオトロープは俺の腹に一発蹴りを入れた。嘔吐した後なので、頭に血が急に上り、もっと気持ち悪さがあった。
「ハイドレンジアよ、お前の未来はもうない。最後に問う。私の婿になってくれないか。」
「なるわけない。こんな悪魔に。」
吐き残りが唇から垂れて、あまり、うまく言えなかったが、今の気持ちを全て込めた。
彼女の顔を伺うと、まさに悪魔のような…いや、童話に出てくる醜い邪神のような笑みで、俺の頭に何か破片を刺してきた。
倒れて、薄れゆき、ぼやける世界を覗くと、そこにはガラスの破片が床の俺の血とともに飛び散っていた。
きっと机にあった鏡を割って刺したのだろう。
今もなお彼女の顔は人間の顔ではない。
そして、俺の魂が亡くなるまで、死体を刺し続けていた。
最後に聞いた言葉は
「一生私と一緒ね。あなた。」
──あぁ、もう終わりなのか。
最後に見た顔があの憎き女というのか。
やはりこの世に神様などいないということだな。
「さよなら、憎ったらしいヘリオトロープ。」
冷酷物語〜壊された愛〜 花魁童子 @yukari_hanada
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