就寝チェック

小さい頃　常夜灯（じょうやとう）を点けて寝ていましたよ

常夜灯ってオレンジ色の小さな豆電球のこと

お部屋全体がぼぉんやりオレンジ色に染まってね　薄暗くって

あまり深くは知らないなりに

暗室とか　夜行性の動物の展示室みたいって思っていました

暗室とか　夜行性の動物の展示室の中に居て

その床でお布団の中に入って寝ているみたいってね

するって言うと　暗室とか　夜行性の動物の展示室の床に

人が寝ているなんて思わないから

勘違いして入って来た人が　

薄暗い中　うっかり踏んじゃったり　蹴躓（けつまず）いちゃったりして

ぎくっとした　強張った顔で　体を竦（すく）めて　両手を突き出して

倒れ込んで来やしないかしらってね

どうして　こんなところに　寝ているのだー！って

だめだー！　どうにも避けられないー！ってね

そうして突っ張った両手の　体重の掛かった　付け根の所で

顔の出っ張りや凹みや　喉やお腹の辺りに　わぁっと落っことされて

ヒサンなことになってしまいや　しないかしらって思っていました　

どういう因果で　そんなことを思うのかって言うと

□□さんが　よく肥えた　大きい人でね

そりゃあもう　大体の推量がつくでしょう

□□さん　何にいじけたか知れないけれど

いつも　しこたま　お酒を飲んで　しょうもない　莫迦な物も　打ってね

人間様の　知能とか　理性とか　品格とかの類（たぐい）を　粗方溶かしてしまった

溶けて流れてしまった後の　すかすかの　頭で以（もっ）て

それでも　我が子が　自分の言い付けを　何でも　はいはい　聞いてるかどうかには

いつまでも　殊の外　敏感でね

ある晩　くらぁい部屋で　びかびかちかちかのテレビを見て

しこたま飲んで　莫迦なもの打って　くらんくらんの目と足取りで

子供が自分の言い付け通り　ちゃんとおとなしく寝ているかどうか

奥の和室へ　調べに行った

たったちょろっと歩いただけで　ぜいぜい息を切らしながら

常夜灯のオレンジの明かりが　ぼぉんやりと薄暗い

暗室とか　夜行性の動物の展示みたいな　和室の

襖を開けた中へ　つんのめって　踏ん張って　入ってね　

いつも子供が布団敷いて寝てる　部屋の真ん中辺りには

夕に手前が吐き散らかして　子供が苦労して拭いた　湿った臭う跡があって

子供がそれを避けて寝たのを

まるっきり　忘れて　見落とした

どうして　こんなところに　寝ているのだー！って

だめだー！　どうにも避けられないー！ってね

以来　常夜灯を点けて

暗室とか　夜行性の動物の展示みたいな

薄暗い和室に寝ていると

勘違いした人が　入って来て

うっかり踏んじゃったり　蹴躓いちゃったりして

倒れ込んで来やしないかしらって

暗室とか　夜行性の動物の展示みたいと思いながら

そういう風に思います

ねぇ

それで　今　どうなっているか

ちょっと　こっちを　見てごらん

起きてんだろ

分かってんだよ

終．