夢界漂流記 ― 途中で筆を折った私が、未完の世界で拾われる話 ―

杜 明日里 / Akari Mori

prologue-1:頁の外にて(???)

 

 最初に見えたのは、紙のように薄い光だった。

 それは空でも地でもなく、ただ境界に漂う層。

 言葉を失った人の沈黙だけが、静かに積もってできた場所。


 彼女は、そこに在った。


 眠っているのではない。

 死んでいるのでもない。

 ただ、世界のどこにも属さず、静かに浮かんでいた。


 名前も、肩書きも、筆も失ったまま。

 それでも指先には、まだ“書く”という形だけが残っていた。


 やがて、遠くから頁のめくれる音がした。

 ──誰かが、それを読みはじめる。

 けれど、その声はどこにも届かない。


 光はゆっくりと揺れ、彼女の輪郭を世界の内側へと沈めていく。

 その瞬間、観測者の眼がひとつ、頁の端に現れた。


 それは記すための眼ではなく、ただ見るためのもの。

 手を伸ばすことも、言葉を投げることもない。


 ──ただ、記録する。

 彼女が落ちていくのを。


 未完の夢界が、ひとりの書き手を受け入れる、その瞬間を。

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