序盤の悪役に転生した俺、裏ボスの鍛錬と知識チートで最強になって破滅フラグとシナリオをぶっ壊した件~ヒロインやラスボス、他の裏ボスに囲まれ、迫られたので、全員が幸福のトゥルーエンドを目指します~

山田

第1話 悪役転生

「それじゃ、いってきま~す」


 家を飛び出した俺は目的地に向かって駆け出す。


 ガイウス=ウォーディン。


 それが今の俺の名前だ。

 気付いた時にはとても驚いたものだ。


 昨日の夜、ゲームのデバックを行い、いつものように眠る。

 目覚めたら、知らない天井、知ってるお父さんとお母さん、産声を上げる俺。


 今、思い返してもとんでもない状況だったと痛感する。


 しかし、そこからは早かった。


 それもそのはず。

 この世界は『ナイツオブクラウン』

 俺が人生の全てを捧げて開発を進め、デバック作業をし、ようやく発売という所まで漕ぎ付けたアクションRPGの世界だったからだ。

 そして、その中の登場人物――ガイウス=ウォーディンという男に転生していた。


 それに気づいた時、俺は思わず頭を抱えた。


 ガイウスは序盤で必ず死ぬ事が定められている。

 この村で両親を失い、そのままグレる。

 そして、学校に通うようになってから、主人公に決闘を挑み、敗れる。

 それが気に入らずに、力を追い求め、敵に利用され、死亡。


 何と見事なやられ役、だろうか。


 けれど、今、生きているのは俺だ。

 

 流石にそれをそのまま受け入れるなんて事が出来る訳が無い。

 生憎と、知識は誰よりもある。

 何せ、開発者だ。

 初期案、没案、フレーバーテキスト、そして、完成品。全て頭の中に入っている。


「世界が俺を殺す前に強くなって、破滅フラグを何とかしないと」


 それに言ってしまえば、この世界は俺の好みの世界と言える。

 キャラクターや世界観まで、俺が作ったと言っても過言ではない。

 少しくらい楽しんでも損はないだろう。


 とにかく、そこから俺はすぐ行動に移した。


 一番に考えたのは強くなる事。

 ガイウス 十歳。

 今、最も破滅に近しい出来事は両親の死。

 

 両親の死を皮切りにガイウスは力を追い求めるようになる。


 元々、素養はある。

 だったら、赤ん坊の頃から『強化魔術』の鍛錬を行い、基礎を固めた。

 強者は必ずこの『強化魔術』を使ってくる所謂、強者の証。

 これを完璧にするまで十年。


 そして、今日、俺は次のステップに足を踏み入れようとしている。


 『剣』を学ぶのだ。

 それもただの剣ではない。作中最強の『剣』だ。


 故郷であるウォーディン村を抜け、薄暗い森を駆け抜ける。

 木々の間をするすると抜けていき、数十分後。


 開けた場所に出た。


 俺は思わず息を飲む。

 今まで緑生い茂る森の中を抜けてきた。

 けれど、目の前に広がるのは別世界だった。


 一面に広がる真っ赤な彼岸花。

 少し遠く離れた場所に見える大樹。その根近くに刺さった二本の刀。

 

「ここが……裏ボス、絶の……」


 戦闘フィールド。

 そう言おうと思ったのに、俺は思わず口を閉ざしてしまった。

 一面に広がる彼岸花の先。ねじれ、椅子のように伸びた木に座る女性。


 艶やかな黒髪、血のように紅い瞳。憂いをおびた悲しげな表情のまま木にもたれかかっている。

 そして、俺が最も似合うと思い、決めた黒と赤のミニスカセーラー服。

 

 彼女の名は『絶』


 『ナイツオブクラウン』最強の裏ボスであり、最強の剣の使い手。


 絶は俺に気付くと、口を開く。


「誰? 私の領域に足を踏み入れるのは?」


 うわっ!! ゲームどおりのセリフじゃん!!

 俺は思わず飛び上がりそうになるほど、心が躍る。

 けれど、それを必死に抑え付け、口を開いた。


「あ、あの、俺に剣を教えて下さい!!」

「……子ども? 悪いけど、今、虫の居所が悪いの。意味、分かる?」


 原作どおり!! くぅ~、コレコレ!!

 このクールビューティ感が良い!! かっこいい!! 綺麗!!

 

 俺の興奮とは他所に絶はひょい、と軽やかな身のこなしで木が降りる。

 木の根に刺さっている二本の刀。その内、紅い鞘に手を掛け、一気に引き抜く。


 その瞬間、彼岸花が舞い、世界が紅く染まる。


 おぉ!! 俺の考えた演出!!


 一瞬、興奮でおかしくなりそうになるが、すぐさま気を取り戻す。

 そんな興奮している場合じゃない。

 

 ここに足を踏み入れたら最後――絶と戦う事になる。


 俺はすぐさま全身に力を込め、魔力を巡らせる。


常時強化魔法状態フルバフ


 この世界における裏ボス、並びにラスボス。著名な存在全てが使える強化状態。

 全てのステータスを上昇させるバフ技。

 これを習得するのに十年かかった。

 これを習得する事こそが、彼女達と並ぶ必須技能。


「へぇ……」


 俺の力量に気付いたのか、絶は笑う。

 しかし、すぐに目の色を変えた。


「子どもだからといって、容赦はしない」


 分かってる。

 絶は手に持つ刀を地に差す。


 ああ、来る。


 来てしまう。

 なのに、高揚が抑えられない!!


 絶が目を閉じると、周囲に紅い魔力の放流が起きる。

 『常時魔法強化状態フルバフ』に入った。

 なら、来る。

 突風が荒れ狂い、俺は思わず顔を覆う。

 それでも、絶から目を離さない。


黒龍こくりゅう 倶利伽羅くりから神像しんぞう 絶尽ぜつじん


 そう呟いた絶の背後に、巨大な不動明王が姿を現す。

 右手には巨大な黒刀を持ち、威風堂々たる姿。


 これこそが――絶の最終奥義。


 そう、彼女は所謂――。


 初手に必殺技をブッパしてくるタイプの裏ボスなのだ。

 俺は思わず言う。


黒龍こくりゅう 倶利伽羅神像くりからしんぞう 絶尽ぜつじん。貴女の必殺技」


 ゲームであれば、当たればHPを1にしてくる凶悪な全体攻撃。かつ、全体強化解除。

 まさしく、裏ボスの名に恥じない必殺技。

 

「良く、知っているわね」

「貴女のことはたくさん、調べたから」

「そう。なのに、来るなんて。死にたがりなの? 私が最初に何をするか理解しているのに」

「違います。俺は生きますよ。貴女に剣を教えてもらいたいから」


 俺は地を蹴った。

 不動明王が動き出す。

 右手に持つ黒刀を両手に持ち、真横に構える。

 一閃。

 真横に振るわれる不動明王の黒刀。

 

 まさしくそれは、世界を切り裂かんとする一太刀。


 風圧で彼岸花の花を散らし、空に舞う。


 その刃が振るわれ、俺の横っ腹に届くほんのコンマ数秒の世界。

 俺は全身に掛けていた『常時強化状態フルバフ』を両足にのみ集中。

 爆発的な膂力を生み出し、一気に絶へと肉薄する。


「なっ!?」

「へへ……」


 ドン、と勢いそのままに絶の腹部に飛び込み、押し倒す。

 その瞬間、不動明王の一太刀を空を切った。

 バサっと絶は彼岸花のクッションの上に倒れ、俺は腹部の上に座った。


「どうだ、黒龍こくりゅう 倶利伽羅神像くりからしんぞう 絶尽ぜつじん。破れたり!!」

「……まさか、この技の穴を知ってたの?」

「勿論。この技の唯一の弱点は、絶の真正面、ピッタリの所だ」


 これはアクションゲームのイヤらしい所を考えている。

 アクションゲームをやる時、人間は必ず敵から離れ、様子を見る。

 相手の行動を見て、どう動くかを把握してから、プレイヤーは動かす。

 しかし、絶は違う。

 離れたら、必殺技を確実に喰らう。その唯一の回避方法が絶の正面に張り付く事。

 

 ちょうどそこだけ不動明王の腕がすり抜ける所なのだ。

 

 俺は最初からそこだけを狙っていた。


「俺って、すげーだろ!!」

「……呆れた。この技に突っ込んでくる人なんて今まで居なかったのに。とんだ無謀な者か、あるいは勇者か……」


 ぽんぽん、と絶が俺の背中を叩く。

 どいてくれ、という合図だと察知し、俺は腹部から降りる。


「なぁ、なぁ、俺に剣を教えてくれよ!!」

「……しょうがない。あの技を初手に見切ったのは君が初めてだ。面白い、少しだけ面倒を見てやろう」

「やったー!!」


 俺は嬉しさのあまり小躍りし、絶の周りを飛び回る。

 絶はやれやれ、と言わんばかりに肩を竦めていた。


 そんなやり取りから一年後――。


 鉄と鉄がぶつかり合う音が響き渡る。

 一合、二合と刃をぶつけ合い、鍔迫り合いに入る。


 絶の楽しげな顔を真正面に捉える。


「へへ、どうだ。少しはやるようになっただろ!!」

「そう、だなッ!!」


 ガキィン、と鍔迫り合いの体勢から力いっぱい俺の刀を弾き飛ばそうとする。

 だが、その勢いを身体を回転させる事で力を殺しながら、回転力によって威力を増幅させ、絶の横っ腹を狙い済ます。

 見透かしていたかのように、絶は刀で受け、後方に飛び退く。


「準備運動は充分だ、ガイウス」

「ああ、そうだな」


 絶と俺。

 どちらからという訳でもなく、刀を地面に差す。

 互いに目を閉じ、集中した。

 

 音がどんどん遠くなっていき、一人の世界へと入り込んでいく。


 全身に力がみなぎる感覚と川のせせらぎのような心の静寂。

 相反する二つを心を合わせ、調和する。

 そうして、辿り着く剣の極致。


黒龍こくりゅう 倶利伽羅神像くりからしんぞう 絶尽ぜつじん!!』


 俺と絶の背後に不動明王が現われ、向かい合う。

 この一撃で、絶を超える。

 一年間、ずっと絶はこの技と刀の振り方を教えてくれた。


 やはり、絶は教え方が上手い。


 たった一年でここまで成長できた。

 この力があれば、俺は『破滅フラグ』と戦う事が出来る。


 本当にありがとう。


 俺は感謝の言葉を心の中で口にし、不動明王を動かす。

 絶の不動明王もまた呼応するように動き出し、その黒刀が交差した。

 砂埃、衝撃波、紅い稲妻。それらが飛び回る中、俺は気合を入れる。


「はあああああああッ!!」


 バキン、と絶の不動明王の黒刀を折った。

 その瞬間、俺の不動明王は絶の不動明王を切り裂き、雲散霧消させる。


 その場に残った俺の背後に居る一体の不動明王。

 

 絶はそっと目を閉じ、口を開く。


「まさか……負けてしまうとはな。本当にスゴイ才能だ」

「そんな事はないって。絶の教え方が上手いんだよ」

「そうか? そう言われると、ふふ、嬉しいな」


 俺は不動明王を雲散霧消させると、絶は少しだけ寂しげに笑う。


「これで私の教えられる事は無くなったな。もう、来る事もないだろう」

「…………」


 全てを習得してから、俺は絶に話そうと思っていた事があった。

 こんな才能をほっとくなんて勿体無いし、何より、俺がナイツオブクラウンでやりたい事があった。

 それをやる為には絶の力が絶対に必要だ。


「あ、そうだ。ずっと聞きそびれていたな。ガイウス」

「え? 何?」

「何故、強くなりたいと思ったんだ?」


 その問いかけに俺は堂々と答えた。


「何でって、俺は世界と戦うからな。世界を相手にするんだ。強くなって損はない」


 そう。俺は世界。

 つまる所、破滅フラグという名の自分を殺そうとしてくる世界と戦うのだ。

 

 世界。


 その言葉を反芻すると、絶は突然、刀を地面に落とす。

 それから口元を覆い、その血のように紅い瞳から、ポロポロと大粒の涙を流す。


 えっ!? な、何事!?


 俺が困惑していると、絶は嬉しそうに言う。


「世界……あぁ、あ……そうか……君が……そうなのか……」


 え?

 困惑する俺を他所に絶はそっと膝を折り、頭を下げた。


「ずっとずっと、お待ちしておりました。真王しんおう様」

「……え?」


 ……この瞬間、俺は絶からとんでもない好感度の上がり方を感じた気がした。

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