矮小で強大が月への愛情
@AsuAsaAshita
月射止める
私は月を愛しています。
月が好きです。美しく、綺麗で、強大で、光をまとっています。
私は月を見るのが好きです。
この世界、とても大きな世界が、とても小さく、微小に見えるからです。
月が好きです。
私の中の悩みや絶望などが、とても小さく、愚かに見えるからです。
見えたところで何か変わるわけではありませんが、
私は月が好きです。
現在では、月旅行が当たり前になり、すべての生きる人間は星間旅行を当たり前にしています。
一種のレジャーと化したそれは、人々に選択肢を与えました。
しかし、私は月に行ったことがありません。
「なぜ?」と聞かれました。
「月が好きなら、月へ旅行へ行かないの?」と。
しかし私は言いました。
「私は、月を見るのが好きなので」
そんなときに、私は友から月へのチケットをいただきました。
「一度行っておいでよ」と言われました。
確かに、月へ行かずに死んでしまうのはもったいない。
私はそう思いました。
そして月へのロケットに乗りました。
ロケットから見る月もやはり綺麗で、美しいです。
大好きです。
私は正直、胸の高鳴りを抑えきれませんでした。
子どものようにはしゃいでいました。
そしてロケットが発射し、月へ向かいました。
一時間ほどでしょうか。あっという間に月に着き、私は降り立ちました。
素晴らしい。
重力の軽さと真空の匂いを感じて、私は感動し、涙しました。
人生でもっとも感動したと言ってもよいでしょう。
地球が見えました。
青く、緑の地球です。
まあそんなに綺麗ではありませんでしたが、いままで住んでいた場所なので、一応目に焼きつけておきましょう。
そろそろ帰るころですので準備を進めていたところ、ご家族の方に「写真を撮ってくれないか」と言われました。
承諾し、写真を撮るとき、彼は聞きました。
「あなたはなぜ月に?」
私は言いました。
「月が好きだからです」
その人は言いました。
「見ていたときと、降り立ったとき。どちらが好きですか?」
迷いました。
結局、ここでは月を見ることはできず、感じることはできますが、
満ち欠け、月食、日食、それらの顔を楽しめないのはいやだと、
やっぱり私は見ているほうが好きですと答えました。
その人は笑って言いました。
「見ているほうが好きな人は初めて見た」と。
そういうものでしょうか。
私は少し不安になりました。
もし、月を見ているだけで満足し、見るほうが好きなのが私だけだったら?
私の中の価値観、愛情が他の誰にも理解されないものであったら?
別に他人に理解されようとも、してほしいとも思ったことはありません。
でも、それでも
この感動。夜に月を見て、死にたくなるような、消えたくなるような、
心が砕けたクリスタルのようになる感覚が、
他すべての人間にとっては馬鹿らしく、愚かで、理解不能な感覚であったら?
私を理解できるのが、私だけだったら?
目の前で子どもが跳ねていました。
うさぎのように楽しそうに。
私は聞きました。
「それは楽しい?」
子どもはうなずきました。
私は聞きました。
「もし、その感覚が他人に受け入れられず、自分しか理解できない感情だったら?」
その子は不思議そうにして、少し考えて言いました。
「誰かに理解されることって大事? ぼくはこの刹那の感情を愛してるよ。」
それを聞いて、目から涙がこぼれそうになりました。
私は気づきました。
私こそが、私をいちばんに愛せる人であったと
わかってやれる人であったと。
「ありがとう」と私は言いました。
その子は聞きました。
「あなたは月を愛してる?」
「うん、私は月を愛しているよ。誰よりも、何よりも。」
子どもは笑って、なぜかいつの間にか姿を消していました。
矮小で強大が月への愛情 @AsuAsaAshita
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