第31話 今できること


 エンブと別れた後は、何事も無く森を抜けられた。


 森を抜けた後、僕はリンさんが言っていた冒険者達を探す。周囲を見渡すと、離れた場所にそれらしき集団がいる。僕は彼らの下に走り寄った。

 冒険者達は馬に乗っていて、皆武装している。今まで見て来た冒険者の中でも、一際強そうな雰囲気を纏っていた。


「おや? どうしたんだい?」


 彼らに近づくと、そのうちの一人が僕に気付く。全身に甲冑を身に付けた男性だ。


「ここは危ないから離れた方が良い」


 細目で穏やかな表情の青年が諭すように言ってくる。名前は知らないが、たまにギルドで見かける青年だった。

 僕は青年に伝える。


「フェイルに捕まってたヴィックです。リンさんからの伝言を受けてここに来ました」

「……君がヴィック君か。リンさんはなんて言ったんだい?」

「商人達の馬車隊が狙われています。一刻も早く助けるようにと」

「あの依頼か……分かった。すぐにでも――」

「待て」


 青年の行動を遮る声があった。僕は声の方に視線を向ける。

 一人の女性が馬に乗って、集団の中からこちらに向かって来る。短い赤髪の、目つきが恐い女性だ。


「そいつ、ほんとのこと言ってんのか? 罠じゃねぇのか」


 女性にしては低い声で、男性のような口調だった。


「オレ達をここから離れさせて逃げ道を確保する。そのために人質を買収して嘘の報告をするなんて、あいつがしそうなことだ」


 その女性は、僕を疑っていた。


「違います! 本当です! リンさんに頼まれたんです!」


 僕は声を大にして否定する。

 だが僕の声は、彼女に届かない。


「口では何とでも言えるだろ。証拠を出せ。証拠。メモとかリンの持ち物とか、そういうのだ」

「そんなもの……」


 あったらとっくに出している。無いから言葉を出すしかないのだ。


「ありません。けど信じてください! 早くしないと商人や冒険者が……ミストが死んじゃうんです!」


 必死に僕は訴える。だが女性は、まったく動じることはない。


「はーっ……そんな言葉だけで動くわけねぇだろ。だいたい、お前はどこの誰だ? せめて身元を明かしてから言え」

「ヴィックです。ヴィック・ライザー」

「ヴィックぅ……? あぁ、なるほど、ね」


 女性は何か納得したかのような素振りを見せる。


「お前、あのハイエナか」


 そして、僕の汚名を口にした。


「……そう言われてます。けどそれは誤解で――」

「いい。というか、うるせぇ。どっか行け。邪魔だ」


 途端に邪険にあしらわれた。なんで? どうして?


「待ってください! 早く助けに行って欲しいんです! だから――」

「兵を割いて助けに行けってか。馬鹿だろ」


 僕の望みを、彼女は一蹴する。


「ハイエナのお前を信じると思ったのか。実力も信頼もない奴の言葉なんて紙より軽いんだよ」

「けど――」

「しつこい」


 女性が剣を抜き、剣先を僕に向ける。


「次に言ったら斬る」


 本気の眼だった。また口を出したら本当に斬られる。そう信じざるを得ない本気度を感じた。

 それほどまでに、僕の言には真実味が無いのか。


 僕には何も無い。人を振り向かせる魅力が、言葉を信じてもらえる実績が無い。だから彼女は、僕の言葉を信じない。

 だから僕は、何もできない。あいつの言葉だから信頼できる。あいつには実績があるから信用できる。そんな風に、信頼されるための根拠が無いから……。


 その根拠はどうやって作るんだ? どのように作った? どんな時にできたんだ?

 いつ――


「分かりました」


 少女の姿が思い浮かんだ。そうしたら声を出していた。


「じゃあ間違っていたら、僕を斬ってください」


 命を賭ける覚悟を、口にしていた。

 女性は目を細くして僕を睨んでいる。


「聞いてなかったのか? 斬るぞ?」

「かまいません。けど助けに行ってください。斬る前でも後でも良いんで」

「……正気か?」

「あなたは職務に真剣で、それを全うしていることは理解します。だから僕も、真剣に要求しているんです」

「それでオレがビビると思ったのか? オレは仕事柄、何人も殺してる。たかが雑魚冒険者を殺すことに、何の躊躇もないぞ」

「あなたの言う通り、僕には実力も信頼もありません。だから信じてもらうためにも、僕は一番大事にしているものを出すしかありません」

「それが命ってか? お前の命にそんな価値はねぇぞ」

「賭けてるのは僕の命だけじゃありません。馬車隊と馬車隊を護衛している冒険者達の命もです。あなたにとって、それは安い物じゃないはずだ」


 あの日、僕は彼女に助けられた。一度捨てた命を拾ってくれた。

 その命の使い所がここだ。

 今度は僕が、命を張って彼女を助けよう。


「だからお願いします。助けに行ってください」


 僕は女性の黒い瞳をじっと見つめた。僕が出せるものはもう無い。これで動いてもらうしかなかった。

 女性は僕の視線を逸らさずに受け止める。探ってくるような意志を感じ取って、僕も視線を逸らさなかった。


 女性が口を開く。その直前、聞き覚えのある声がした。


「信じて良いんじゃねぇのか」


 集団の中から、一人の男性が割って出る。


「自分の命を差し出すほどの覚悟ある進言だ。聞いてやっても良いだろ」

「……オレに口出しすんのか。隊長はオレだぞ」

「ただの提案だよ。そうだな、隊を2つに分けよう。で、片方が馬車隊に向かって、残りは引き続きここで待機だ」

「人が減れば、それだけあいつを取り逃がす確率が上がるぞ」

「最小限の人数だけを連れて行く。俺含めて五人も居りゃ十分だ。それとも何か? たかが五人減っただけで、お前の部隊は機能停止するほど貧弱なのか?」

「……上等じゃねぇか」


 女性は馬を操って集団の方に向き直る。その集団の中から四人を指差して指示を出す。


「お前とお前、あとお前とお前。こいつについて行け。残った奴は抜ける奴の役割を確認して穴を埋めろ。良いな」


 女性の指示を聞くと、彼らは「了解!」と声を張り上げる。その直後、呼ばれた四人が出てきて男性の下に集まる。


「よし、じゃあ早速行くぞ。……なにボーっとしてる? お前もだ」


 男性は、呆けている僕に声を掛けた。


「お前も来い。後ろに乗せてやる。……友達を助けに行くんだろ?」

「……はいっ!」


 そうして僕は、男性の馬の後ろに乗る。

 マイルスの英雄の背中は、大きかった。




 ソランさんを先頭に、僕達は進んだ。五頭の馬の集団が街道を駆ける。

 彼らの足並みは乱れることなく、隊列を維持している。疲れる様子は微塵も出さない。僕も依頼で馬を使用し乗ったことはある。だがここまで速く、そして上手く走らせられなかった。

 馬術に長けた彼らを見て、頼もしさを覚えた。これほど凄い人達なら助けられる。ミスト達を助けられる。そういう自信があった。


「そんなに遠くは無さそうだな」


 ソランさんが遠くの空を見上げる。あの緑色の信号煙が、空にうっすらと残っていた。


「けど煙が上がったのが20分くらい前なので急がないと」

「あいつらだって冒険者だ。護衛の中には上級冒険者もいる。黙ってやられることはねぇ。それくらいの時間は耐えれるだろ」

「そうですね……」

「……心配か?」

「はい」


 ミストは強い。彼女ならモンスターの集団が相手でも戦えるだろう。それほどの力が彼女にはある。

 だけどミストは、まだ冒険者になって間もない少女でもあった。


 商人達と他の冒険者。彼女の双肩には、彼らの命が乗っている。

 いくら天才と呼ばれようとも、他人の命が掛かっているというプレッシャーを受け続けたら、本来の彼女の力が発揮できなくなる。

 ミストの本領は、自由であるときに発揮される。腕前は一流でも、経験豊富な冒険者のような精神的なタフさは持ち合わせていない。それが懸念だった。


 僕の思惑を察したのか、ソランさんが言った。


「だが心配してるだけじゃなにもできねぇ。今のお前にできることは、到着後に自分が何を出来るかだ」

「何を出来るか、ですか?」

「そうだ。自分にどんな力があるか、どんな知識を持ってるか、それをどんな風に活かせるか考えろ。現場は混乱してるはずだ。そんときに必要なのは行動だ。ぼさっとしてたら何も出来ねぇ。だがそれが出来れば、一人でも多くの人間の命が救える。それをしろ」

「はい」


 返事をすると、ソランさんは「ふっ」と笑う。


「前に比べたら、ちょっとはマシになったみてぇだな」


 その言葉がいつを指しているのかを、僕は容易に察した。覚えていたのか……。


「あのときは、ありがとうございました」

「当然のことだ。気にするな。それよりも……よく無事にあいつから逃げられたな」

「リンさんが機転を利かせて助けてくれたんです」


 そのときのことを話すと、ソランさんは「ほぅ」と感心した。


「あいつがそんな手を使ったのか……変わるもんだな」

「そんなに意外なことなんですか?」

「あぁ。あいつはドが付くほどの真面目だったからな。出会ったことからズルが出来ない正直者で、卑怯な手を使う発想すら無かった女だった。だがギルド職員になると決めたときから、あいつは変わった。……というか、変わることを決めたんだ」

「……なにがあったんですか?」


 フェイルとの会話で聞きそびれたことだった。リンさんが冒険者ギルドの職員になった理由。それを知りたがる僕がいた。

 ソランさんは、それを語ってくれた。


「あいつを慕っていた後輩が死んだんだ」

「……死んだ?」

「四年ほど前の話だ。貧民街出身で、お前と同じくらいの歳の少年だった。そいつは家族を養うのために冒険者になった優しい奴だった。だが腕はからっきしで、あまり稼ぎは良くなかった。だからリンに弟子入りしようとして何度も志願したが、あいつはそれを断り続けた。けどある日、あいつは根負けして、時間の空いた時だけ指導するようになった。素直な性格だったから、いずれはそれなりの冒険者になるだろうと俺も思っていた」


 ソランさんの口調が暗くなる。その後の展開は、聞かなくてもある程度予測できた。


「当時、ゴクラク草の売買が盛んだった。ゴクラク草の採集の依頼がギルドを通さずに冒険者に持ち込まれた。違法薬物の採集依頼は禁じられていて、冒険者はそれを知っていた。だが高額な報酬に目が眩んで、依頼を受ける者も多かった。特に金が無かった奴らがな。あいつもその一人だ。その後は、お前の想像通りだ」

「リンさんは、その人の事を思っていたんですね」

「あぁ。あいつにとって初めての後輩だった。だから愛着も湧いてたんだろ。そいつに指導を始めてから、あいつが笑うことも増えていったからな」


 どこか遠くの存在に思えていたリンさんだったが、話を聞いて身近に感じる。

 あの人も、大事な人のために変わろうとして変わった。その気持ちに、共感を抱いていた。


「だからあいつは、同じ過ちを繰り返さないように支える側になることを決めた。だからお前を助けに行ったし、俺達もあいつを助けたいと思った。それが全ての始まりだ」

「慕われてるんですね。皆に」

「昔のあいつなら考えられねぇことだな。お前らも……まぁ助けろとは言わねぇ。お前らにしちゃあ、関係の薄い話だからな」

「そんなことは――」

「その代わり、生きろ。生きて、幸せな冒険者生活を送れ。その後は冒険者を続けるのも引退するのも自由だ。ただ、冒険者になったことを後悔しないように生きてくれ。俺達が願うのはそれだけだ」


 ソランさんの声には熱がこもっていた。強い思いが込められた声が、僕に向けられている。

 そんな声を聞いて、無碍に出来る訳がなかった。


「もちろんです。頑張ります」

「よしっ。……それじゃあ」


 遠くの方に馬車が見える。それを囲むモンスターと、戦う冒険者達の姿がある。

 彼らを見て、ソランさん達は馬を更に加速させた。


「行くぞてめぇら! 一匹残らず叩きのめせ!」

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ソランさんの声の後に、ついてきた冒険者達が続いた。気合の入った声に、思わず僕も興奮する。僕も何かしなければ……。


 一番近くの馬車の近くに、大きな人型モンスターがいた。ゴーレムと呼ばれるモンスターだ。全身が石でできた身体で体長が5メートルほどある。ゴーレムは右手を振りかぶり、今まさに馬車にその手を振るおうとしていた。

 そのゴーレムと馬車の間に、馬から飛び降りたソランさんが割って入る。


「らぁあああああああああ!」


 メイスを両手で持ち上げ、ゴーレムの手を地面に叩きつけるように振り下ろす。圧倒的な体格差と体重差のある相手だ。どう考えても力はソランさんの方が劣る。

 にもかかわらず、ソランさんはゴーレムの手を地面に叩き下ろした。


 ゴーレムは苦痛の声を上げながら地面に膝を着き、体勢を崩す。その隙にソランさんは追撃をせず、大声で言った。


「みなさん、ご安心してください! この私、ソランが皆様を助けに来ました! もう大丈夫です!」


 先程とは違った丁寧な言葉遣いだった。疑問に思う僕だったが、冒険者達と商人は気にかけず、むしろ喜んでいる。

 マイルスの英雄、ソラン。彼が来た事実に比べれば、言葉遣いなど些末なことなのだろう。


 続けて、一緒に来た冒険者達もモンスターと応戦する。その光景を見た人達が、安堵の表情を浮かべた。


「ソランが来てくれたぞ」

「他にも冒険者が来てるぞ」

「助かる……助かるんだ!」


 安心しきった商人達をよそに、護衛していた冒険者達は地面に身体を下ろした。

 彼らも安心しきった表情を見せている。だがその顔には疲労も混じっていた。ほとんどの冒険者が怪我をしていて、装備と身体が汚れている。

 僕は馬を降りて、その内の一人の下に駆け寄った。


「大丈夫ですか? 怪我は?」

「あぁ、援軍か。助かる。けど俺はまだ大丈夫だ。他の奴のとこに行ってくれ」


 そう言って、彼は馬車の方を指差す。馬車の近くには地面に伏せた者もいて、その人達を治療する冒険者の姿がある。

 その姿は、見覚えのある人のものだった。


「ラトナ!」


 怪我人を治療しているのは、ベルクの仲間のラトナだった。彼女は僕を見て、ほっと息を吐いた。


「ヴィッキーじゃーん。良かったー。無事だったんだね」

「それは僕の台詞だよ。ラトナ達も依頼を受けてたの?」

「うん。他の皆もいるよ。ほら」


 ラトナが指差す方向にはベルク達がいた。ベルクは地面に座って、ミラさんに頭を包帯で巻かれている。ミラさんのその手つきはたどたどしかった。


「おい。まだできないのか?」

「ちょっと動かないで。ずれちゃうでしょ」

「何度失敗してんだよ……ん? ヴィックじゃねぇか!」


 ベルクが僕に気付いて声を上げる。その拍子に頭を動かしたことで、頭に巻かれた包帯がずれ落ちていた。


「あー! 動かないでって言ったでしょ!」

「おっせぇんだよ。もっとぱぱっと巻けよ。ラトナみたいに」

「ラトナと比べないでよ! ……もう知らない!」


 ミラさんは僕をひと睨みすると、不貞腐れてそっぽを向いた。その間にベルクが僕の方にやって来る。


「無事だったみたいだな。ミストからお前が攫われたって聞いてよ、心配してたんだ」

「そうなんだ……っていうか、頭が」


 ベルクの頭から血が流れ出る。ベルクは布を手に取って、傷口に当てた。


「あぁ。さっきモンスターにやられちまったんだ。これくらいは平気だ。まぁ、援軍が来てくれなかったらやばかったけどな」


 ベルクがいた場所の近くには、他にも負傷者がいる。ぐったりと地面に寝ていたり、身体から血を流している者が多い。重傷者が多そうだ。


「助かったぜ。お前達が来てくれてよ」

「僕は、大したことしてないよ」

「馬鹿野郎。助けに来てくれたって事実だけでも良いんだよ」


 軽く口角を上げるベルクの顔を見て嬉しくなった。対して役に立てないと思ったが、少なくとも励みにはなれたようだ。

 気持ちが昂り、やる気が増す。彼らのためにも頑張らなければ。


「ありがとう。けどまだ頑張るよ。他にも負傷者がいるし、治療くらいなら役に立てる。戦ってるミストの援護はソランさん達に任せられるから、今の僕が出来ることをしないと」

「そうか。それなら遠慮なく……そうだ!」


 突如、ベルクが大声をあげる。

 何事かと驚いていると、ベルクが焦った様子で僕に言う。


「ミストだ! あいつを助けねぇと!」

「……うん。けどそれはソランさん達がしてくれてるんじゃないの?」


 護衛の冒険者達は、襲ってきたモンスター達を馬車から遠ざけるようにして戦っている。馬車の近くには商人と負傷者がいるので、彼らを守るためにそのように動いているのだと察していた。

 そしてミストの姿は馬車の近くにいない。だからモンスターと戦っていると思っていた。


 だが、ベルクの言葉がそれを否定した。


「違う! あいつは森に入った!」

「森に? なんで?」

「モンスターに襲われる直前、森の手前で信号弾を撃った奴がいた。俺達はモンスターの対応でいっぱいだったが、そいつが森の中に入って行くのを見たミストが追いかけに行ったんだ。『あいつを捕まえて言うことを聞かせれば、モンスターを大人しくさせられるかも』って言ってな」

「……ミストらしいね」


 早い判断と行動力。それがミストの長所だった。それらの長所を生かして、今までも様々な苦境を覆した。

 彼女の実力なら下手人を捕まえられる。そんな確信に近い予感を得ていた。


 だけど、胸のどこかがざわついている。

 本当に大丈夫なのか、と。


 心配になった僕は、森に入りたい衝動に駆られる。ミストの様子を確かめた。無事ならそれでいい。

 しかし、もしそうじゃ無かったら? 想定外の事態に巻き込まれていたら?


 考え始めると不安が止まらない。だけどここから離れるわけにもいかない。怪我人がいる。彼らの治療をしなければいけない。

 それに僕は武器を持っていない。フェイルに襲われてから失ったままだ。手ぶらで探しに行っても足手纏いになるだけだ。

 つまり、僕に選択肢など無いのだ。ここで皆を治療して待つ。それ以外に……。


「ベルク」

「なんだ?」


 僕はベルクの方を見て言った。


「ここを離れても良い?」


 徒労に終わるかもしれない。行けばベルク達に負担がかかるかもしれない。

 だけど、それでも行きたかった。

 ここで足踏みしていたら、僕は彼女の隣に立つ資格がない。そう思った。


「カイト」


 ベルクの声に、「なに?」と反応する声があった。黒髪黒目で顔立ちが整った青年で、ベルクの仲間のカイトさんだ。


「武器を貸してやってくれねぇか?」

「良いよ」


 カイトさんは悩むことなく返事をした。僕に近寄って来て、盾を剣を僕に渡す。僕が普段使っているものより少し大きいくらいで、使い勝手は良さそうだった。


「いいんですか? 借りても」

「うん。ヴィックになら貸しても良いって思ってるから」


 そう言ってカイトさんは笑みを見せた。

 ベルクは立ち上がって武器を持つ。


「ここは俺達に任せとけ。お前はさっさと仲間を助けに行ってこい」

「はいっ!」


 ベルク達の応援に応えるために、必ずミストと一緒に戻ろう。

 そのために、僕は馬に乗って走った。森の中に入ったミストの元へ。

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