第4話 冒険者の生き方
リンさんの説明が終わって冒険者ギルドに戻ったときには、陽が沈みかけていた。僕達は剥ぎ取ったチュールの皮や爪を入れた袋を担ぎながらギルドの中に入った。
中に入ると、ギルドの制服を着た長い金髪の女性が入り口の近くに居た。
「お帰りなさーい。今日もお疲れさーん……ってあれ、新人さんかな?」
その女性はフランクな口調で僕とリンさんを出迎える。
「本日から冒険者になりました、ヴィックです」
「そっかそっかー。私はリーナっていうんだ。よろしくね。君はどこから来たんだい?」
「ミシノ村ってところです。今日着いたばかりです」
「おー、結構遠い所から来たんだねぇ。大変だったんじゃない?」
「そうですね……楽しむ余裕はなかったですね……はは……」
乗船していたときのことを思い出し、少し自嘲してしまう。
「そっかそっか。けどマイルスには楽しいところがたくさんあるから、目一杯楽しめると思うよ」
前向きな言葉が嬉しくて、つい笑みが浮かんでいた。家を追い出されてどうなるかと思っていたが、案外何とかなるかもしれない。
「リーナ、ヴィックさんが取ってきた素材の査定をしてください」
「りょうかーい。じゃ、頂戴」
リーナさんが両手を前に出し、僕は担いできた袋をその手の上に置く。リーナさんはそれを受付の方に運んで行き、袋の中身を取り出して1つずつ見始める。
5分ほど経つと、「終わりー」と言って僕の方を見た。
「鑑定終わりましたー。買い取り額は10ルパーねー」
「10ルパー……ですか」
だいたい10日分の食費だ。思ったよりも良い値段がついて少し嬉しかった。
「チュールの皮はそんなに高くないけど、爪はそれなりに価値があるんだー。内訳としては、皮が二割で爪が八割ってところだね」
同じモンスターでも剥ぎ取るものによって値段が違うようだ。けっこう重要な事かもしれないと思い覚えておくことにした。
「さて、これで説明はすべて終わりました。ヴィックさん、お疲れさまです」
「あ、はい。こちらこそありがとうございます」
リンさんは、「いえ、気にしないでください」と軽く返した。
「何もしないと食い扶持すら稼げない冒険者が増えてしまいますので。これくらいの労力は惜しみません」
「……冒険者ってけっこう大変なんですか?」
リーナさんが「そだよー」と返答する。
「以前は冒険者登録をしたらそれで終わりって感じだったのよ。だから稼ぎ方を知らない冒険者が多くなって、知らずにルール違反をする冒険者が多くいたの。そのせいで冒険者同士の喧嘩が多かったり、ズルする人が得するような状況になっちゃってたの」
「マイルスは多くの村や町から出稼ぎに来る方が多い都市です。そのためここで初めて冒険者になったという方が多くいます。今はルール違反をする方達はほとんどいなくなりましたが、未だにルールの穴をつく人は残っています。ヴィックさんも気をつけてください」
「は、はい」
「今は昔に比べたら色々と支援してあげられる制度になったけど、それでも冒険者は大変だからねー。危険な街の外に出て、強いモンスターと戦ったり、どこにあるのかもわからない食材とかを探したり、それで大怪我をしたり死んじゃったりしたら自己責任だなんて言われちゃう……この街の英雄でさえも冒険者になる奴は馬鹿だって言っちゃうようなお仕事なのよねー。その分夢が見れるんだけど」
「残念ながら夢だけで続けられるような簡単な仕事じゃありません。ヴィックさんも他にアテがあるのなら他の仕事に就いた方が良いと思います」
冒険者ギルドの人がそれ言っちゃうんだ……。
「あはは! リンちゃんが言ったらダメでしょー」
心の中でそう突っ込んでいたらリーナさんが笑いながら同じようなことを言っていた。
「生きていることが一番ですからね。ヴィックさんにも命を落としたら悲しむ人がいるでしょう。そのことを考えたらどちらが良いか、誰でも分かることです」
リンさんの言う通り、親や兄弟のことを考えたら安全な仕事に就くことが最善だ。自分が死んだら大事な人達を悲しませるし、残された人のことを考えたら冒険者にはならない方が良い。
だがそれは、僕には当てはまらない。
「僕は大丈夫ですよ。これしか稼ぐ方法は無いし……家族もいませんから」
元々、住む家が無くなって一人でここに来た口だ。今更僕が死んでも誰も悲しむ人はいない。そう考えると冒険者はうってつけかもしれない。もしかしたらララックさんも、そう考えて冒険者を勧めたのかもしれない。だとしたらなかなか良い性格をしている。
2人がじっと僕の顔を見ている。リンさんは「そうですか」と淡々と返し、リーナさんは明るい顔を崩さずにいた。
「ヴィック以外にも同じ境遇の人もいるよー。たくさんじゃ無いけどねー。そういう人達のなかにもけっこう稼げてたり、冒険を楽しんでいる人もいるから、他にアテがないならウチをオススメするよー」
「冒険者は仕事の経験がなくても、誰でもなることが出来ます。冒険者になると決意したのなら、
「至れり尽くせりだよね。こういうことが出来るようになったのはリンちゃん達のお陰なんだよねー。ダンジョンを上級冒険者の人と一緒に巡回して取り締まってくれたり、地道に新人冒険者達に親切に指導をしてくれた成果だよ。ホント頭が下がらないよねー」
「上がらない、の間違いです。あとリンちゃんはやめて下さいと――」
「ま、そういうことだからさ」
リーナさんは僕に近づき、しゃがみ込んで僕の両手を握る。手を握られてドキッとしたが、リーナさんの表情は真剣だった。
「無事に冒険者を続けてね。少なくともヴィックの身を案じてる人がここにいるんだから、ね」
彼女の眼は優しかった。金色の瞳から温もりを感じ、心から僕の身を案じているようだった。
「なんてねっ」とリーナさんは手を離して、最後こそふざけた感じに戻ったが、その言葉が嬉しくて、僕は無意識に頷いていた。
「冒険者になると決めたのなら、それなりの装備は準備していてください。せめて武器ぐらいは」
リンさんが忠告すると、リーナさんが元の調子で同意する。
「それもそうだねー。今日買いに行くのなら早く行った方が良いよー。もうすぐ武器屋も閉店時間だしー。明日行くならいいけど」
「あ、いえ。今から行ってきます」
「そっか。じゃあまたねー」
「は、はい……ありがとうございました」
お礼を言って外に出ると、僕はすぐに武器屋に向かった。行くのは明日でも良かったのだが、さっきの言葉が嬉しくなって気が急いていた。
あんな風に応援されたら張り切るのも可笑しくはないと、自分に言い訳をしながら。
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