第25話 最後の灯──冥府決戦(後編)
冥府が崩落していく。
黒い霧は泣き叫び、
魂の悲鳴が嵐のように渦巻いた。
その中心に、冥王は立つ。
黒き翼を広げ――
今までとは“質”の違う闇を纏って。
「……貴様らの力。
認めよう」
ひび割れた声。
苦悶と歓喜が同居した声音。
メオルの影は全てを呑み込み、
ただ一つの形へ変わっていく。
巨大な黒い獣――
否、魂を纏った超越存在。
その体はどこまでも深く、
その眼光は魂の底まで見透かしてくる。
「だが、我は喰らう。
この魂さえあれば――
完全となる」
視線が俺とアリスを射抜く。
理解した。
冥王の“完成”とは――
魂返しを宿すアリスを取り込むこと。
そして俺は――
その鍵。
獣の咆哮が冥府を揺るがす。
魂が軋み、地が崩れる。
「来るぞ……!!」
ガルズが吠え、前へ。
ベルダが鎌を構える。
アリスが光を纏い、翼を広げる。
俺は深紅を握り――
大地を蹴った。
◆
黒が迫り、
世界が塗りつぶされる。
素早さは目で追えない。
空間そのものを踏み潰し、
冥王は獣の牙を突き立てる。
ガルズが受け止め――
砕けた。
「ガルズ!!」
肉が裂け、骨が飛ぶ。
魂の火が散る。
「まだだぁッ!!」
ガルズの咆哮が魂を震わせ――
獣の牙を押し返す。
アリスの光が再生の雨を降らせ、
ベルダが影へ斬り込む。
「うぉおおおおお!!!」
深紅が走り、黒を裂く。
冥王の巨体が揺れ――
一部が吹き飛ぶ。
だが、黒霧が即座に再生させる。
「無駄だ」
冥王の声音が冥府に響く。
「魂を喰らう限り、
我は無限」
黒炎が爆ぜ、
アリスの光を削り取る。
「くっ……!!」
その顔は苦痛に濡れ、
翼がちぎれていく。
「アリス、下がれ!!」
「……だめ、
レンを……守る……!」
その言葉が、痛いほど温かい。
俺は――
この光を守りたい。
◆
「行くぞ、ベルダ!!」
《魂を裂き、深紅で染め上げよ!!》
刃が変質する。
黒と紅が混じり――
紫の光を帯びた。
魂共鳴が極限へ達する。
生死の境界が曖昧になる。
魂が焦げ、痛みが走る。
(構わない)
冥王が迫る。
巨大な影が振り下ろされ、
冥府そのものを押し潰す。
俺は突っ込む。
魂と魂がぶつかる。
大鎌が、獣の首へ――
届いた。
刃が深く食い込み、黒を裂く。
冥王が吼え、
空間が砕ける。
黒が暴走し、
冥府がさらに崩れていく。
「ベルダ!!」
《まだ……まだ足りぬ!!
もっと、魂を燃やせ!!》
知っている。
この力は、
俺たちをも喰らう。
でも――
「勝つためなら……
燃やし尽くす!!」
大鎌を捻り、
黒を引き裂く。
冥王の巨体が崩れ、
中から“本体”が姿を現した。
黒いローブに身を包んだ人影。
その胸元には――
アリスと同じ魂の結晶が輝いていた。
「……あれは……」
アリスが震える。
「魂の……核……」
冥王の魂そのもの。
そこを壊せば――
終わる。
冥王が囁く。
「来るがいい……
だが、代償を払え」
影が奔り、
俺たちを誘うように形作る。
最後の道。
最後の戦場。
――行くしかない。
俺は叫んだ。
「行くぞォォォ!!」
◆
黒の中へ突入する。
空間が歪む。
耳鳴りが鳴り止まない。
魂が焼けるように痛む。
冥王が目の前へ。
一閃。
黒と深紅がぶつかる。
重い。
冷たい。
深い。
魂が削れる。
ガルズが吠え、
黒爪で冥王の影を引き裂く。
ベルダの刃が、
冥王の核へ伸びる。
だが――
冥王の腕がガルズを掴んだ。
骨が砕け、
魂が締め付けられる。
「うぐ……ッ!!
まだ……終わらねぇ……!!」
ベルダが冥王へ飛び込む。
黒い影がベルダを貫いた。
《が……ああああああ!!》
刃が落ち、
冥府へ吸い込まれる。
「ベルダ!!!」
声にならない叫びが漏れる。
冥王が笑う。
「貴様の力、
魂、
想い。
――すべて、喰らう」
アリスが涙の声で叫ぶ。
「いや……
いやぁああああ!!」
光が爆ぜる。
白い翼が広がり、冥府を照らす。
冥王の影が焼け――
核が露わになる。
アリスが震えながら俺へ手を伸ばす。
「レン……
いって……!」
覚悟は、
とうにできていた。
俺は、
アリスの手を握り返す。
「一緒に行く」
魂が重なり、
刃が輝く。
深紅と白が混ざり、
紫光が爆ぜる。
冥王が叫ぶ。
「来いッ!!!」
俺たちは――
苛烈な渾身の
魂の一撃を叩き込んだ。
◆
刃が核を貫いた瞬間、
光が弾けた。
冥王の悲鳴が冥府を揺るがす。
魂が砕ける音。
影が崩れ、
冥府が崩壊する。
冥王は――
静かに笑っていた。
「愉快だ……
お前らは……
本当に……」
黒が霧散し、
冥王は消えていく。
最後に、静かな声が残った。
「願わくば――
再び……」
そして、冥王は消えた。
◆
冥府の光が消えていく。
崩落が進む。
アリスが力尽き、膝を折る。
「れ……ん……」
光が揺らぎ、
魂が薄れていく。
ガルズが倒れ、
ベルダの声は聞こえない。
冥府が、
終わりを迎えようとしていた。
――だが
アリスの手を握り、
俺は立っていた。
「帰るぞ」
アリスが涙を流し、微笑む。
「……うん」
光が包む。
魂と魂が繋がり――
崩れゆく冥府を離れ、
俺たちは帰還した。
――生きて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます