23 そういうものなんですね



「つまり一番問題なのは、サキちゃんが宇宙人ってバレることね!」

 二人の説明を聞いたクルミは、そう言い切った。


「ずいぶん呑み込みが早いな」

 加古川は驚きながら言う。


「宇宙人の役やったことあるからね」


「なるほどな。流石は日本アカデミー賞受賞女優だ」


 サキが頷く。

「そうなんです。身分がバレて捕まったら何をされるか……。

 幸い、レコードで私のことを調べても何も出てきません。レコード社に関する情報は企業秘密ということで非公開にされているからです。ただ抜け道があって、『レコード』という言葉を含めずに私に関することを検索すれば、私の素性は出てきてしまうんです」


 加古川は苦い顔をした。

「つまり、誰かが『加古川 密会していた女性 何者』とか検索すれば、サキさんが宇宙人であることはバレてしまうということか」


 それを聞いて、クルミは険しい顔をした。

「じゃあ記事が出たらまずいわけだ。よし、事務所の力を借りてなんとかしてみる! サキちゃんはしばらくここにいなさい!」


「助かるよ、ありがとうクルミ」

「申し訳ございません、ありがとうございます……!」





 そして一週間が経ったある日。


「ヤバいぞ、クルミ、サキさん!」加古川は思わず叫んだ。「闇の記者団の団長、石原がレコードに当選したらしい!」


「ええっ!?」

 サキとクルミは顔を見合わせた。


「よりによってあいつが!? じゃあ記事を差し止めしても石原にはバレちゃうじゃん!」


「ああ、このままじゃマズい。僕があいつを止めるよ。元はと言えば僕が撮られたのが発端だし」


「そうね、お願いするわ。私は引き続き記事をどうにかできないか試してみる」


「お二人とも、本当にありがとうございます……! 私も何かできることは無いでしょうか」


「うーん、現状あまり目立つ行動はしない方が良さそうだ。サキさんには家に居てもらおう」


「そうですね、すみません……。ここに居させてもらう間、転送装置を修理できないか試してみます」


「うん、ありがとう。でもやっぱり、僕も一人じゃ心細いな。一人で石原を止められるかどうか……」

 加古川は不安げに呟く。


 その様子を見て、サキはハッとした。

「そうだ、今村ミライさん!」


 サキの叫びに、加古川とクルミは小首をかしげた。

「今村ミライ、さん……?」


 サキはコクリと頷く。

「はい。加古川さん、今村ミライさんという方に会いにいってくれませんか。その方が、私たちを助けてくれるんです」



* * *



「それにしても、まさかミライさんがあんな形で僕らを救うとはね。てっきり石原を止めるのに協力してくれるのかと思ってたけど、僕らだけでなく、世界を救うなんて」


 サキが「私もそれは予想外でした」と同意する。


 クルミが思い出したように加古川に言った。

「あっ、そういえばショウ、ちゃんとミライちゃんに謝ったんでしょうね!? 中学生を一人にさせて、更に危険な目にまで合わせて! 本当に反省しなさいよ」


 クルミの気迫に加古川はのけぞる。

「あ、ああ。ちゃんと謝ったよ。大会が終わった後にも、もう一度謝罪をしたよ」


 クルミはハーッ、と大きくため息をつく。

「私だったら絶対そんな危険な目に合わせなかったのに! 私がミライちゃんとアスヤ君と行動したかった!! アカシックレコード隠蔽工作班の一員になりたかった!!」


「仕方ないだろ、君が僕のスキャンダルを止めるために表立って動いたら不自然なんだから」


 言った後、加古川はサキとクルミを交互に見た。

「あ、そういえば捕まったミライちゃんを救出してくれたのは二人なんだよね? どうもありがとう」


 サキは頭を横に振る。

「いえ。ミライさんに助けられたのは私の方なので、当然です」


 クルミが言う。

「ま、私はレコードがスマホに接続されたときに、レコードがある場所の座標を調べただけだけどね。サキちゃんは今頃転送装置の治し方を調べてるだろうなって思って」


「本当に助かりました、ありがとうございます、クルミさん。

ミライさんが捕まったと分かった後、転送装置が治り次第、クルミさんが教えてくれた座標に飛んで、レコードの目の前に着きました。そこからはレコードでミライさんが捕らえられている場所の座標、そこの警備員の追い払い方を調べて、その座標に飛んで助けにいったんです」


 加古川は唸った。

「なるほどね。僕があっけなく警備員に捕まっている間にそんなことがあったとは」


「あんた弱すぎるのよ」

 クルミが言う。


「あ、あの……」

 サキが恐る恐る言う。

「ミライさんと在本さんは一体どうなったんでしょうか」


「ああ、結局どうなったのかは知らないな。大会が終わって、二人が僕を助けに来てくれたんだけど、その時二人とも顔が赤くて疑問には思ったけど……」


「そうなんですね。あっ、そうだ。私、これからレコードの場所まで飛んで、レコードを回収して星まで帰るつもりなんです。ついでに、二人がどうなったかレコードで調べときましょうか?」


 その一言に、加古川夫妻は慌てて言った。

「い、いやいいよ! 大人が学生の恋愛に首を突っ込むものじゃないし!」

「そ、そうよ! サキちゃん、それはこの星では野暮って言うのよ!」


 二人の慌て様に、サキは小首をかしげた。

「はあ、そういうものなんですね。ではやめときます。すいません、この星の文化に慣れなくて……」


 安心して汗を拭った後に、加古川はハッとして言った。

「そういえば、最後に一つ聞いていいかな、サキさん。なんで君は、ミライさんが僕たちを救ってくれるって知ってたんだい?」


 その問いを聞き、サキは夜空を見上げた。

 満点の星空が、一面に広がっている。


「それはですね……」



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