21 読めて良かった、ありがとう


 ピンポン、と玄関のインターホンが鳴った。


 誰が来たか大方予想の付いていたアスヤは、モニターを見てその通りの人物であることを確認して、ドアを開けた。


「よお高瀬。まあ入れよ」


 高瀬はアスヤに連れられ、二階のアスヤの自室に上がった。


 高瀬は、勉強机の上に置いてあるノートに目を奪われた。そのノートをアスヤが手に取り、高瀬に差し出す。


「これが、あの漫画の続きか」

 高瀬はごくりと唾を飲みこんだ。


「清書はしてないけど、それでもいいなら」

 アスヤは頭を掻きながら言う。


 高瀬はゆっくりとページをめくった。中に書き込まれているのは殴り書きに近い絵や文字だったが、高瀬はそれを真剣に読んだ。


 最後のページまで読み終わり息を付き、それを閉じる。


 不安そうな顔のアスヤに、高瀬は言う。


「やっぱりめちゃくちゃ面白いな。一巻に満たない分量でも、どれだけこの漫画が凄いかが分かる。死ぬ前に読めて良かった、ありがとう」


 そう褒める高瀬に、アスヤは照れ臭くなる。


「……まだ描くのには時間が掛かるけど、口でこの先考えてる展開を説明するくらいならしてもいい」


 それを聞いて高瀬は目を輝かせた。

「本当か!? ぜひ頼む」


「公式に早バレするのは今回だけの特例だぞ」


 そう言ってアスヤは続きの構想を話し始めた。それを聞きながら高瀬はこらえきれずに涙し、そして笑った。





「……って感じだ」


「おおお、そんな感じで終わるのか。これを漫画で読める奴は本当に幸運だな」


 高瀬の発言を聞いて、アスヤは視線を落とした。


「実は、もし連載できたらこの内容を十何年かけて連載しようって妄想してたんだよ。でも高瀬の話を聞いてさ、もっと短くまとめるのもいいなって思ったんだ。より多くの、俺の漫画を楽しみにしてくれる人に、この最終回を読んでもらいたいからさ」


 高瀬はそれを聞き、「そうか」と頷いた。

 その口元には微笑みが浮かんでいた。


「そう言えば、この漫画のタイトルって決まってるのか? どこにも書いてないよな」


「ああ、ちょうど昨日決めたんだよ。

『ユニバース・エンド』ってタイトルだ」


「……!」


「ん、どうかしたか?」


「いや、なんでもない」


「なんだよ、気になるなあ」


「本当になんでもないんだ。……そろそろお暇させてもらう。せいぜいこれからも頑張るんだな。じゃあな」


「ああ。漫画、面白いって言ってくれてありがとう。自信がついた。応募してみるよ。じゃあ、達者でな」


 玄関口で手を振るアスヤを背に、高瀬は去っていく。


 歩きながら、高瀬はあることを思い出していた。


 アカシックレコードでカミアドの最終回を検索した時、表示された週刊少年ブレスの表紙。カミアドの主人公アマテラス佐野がでかでかと表紙を飾る傍ら、次世代の人気漫画として掲載されていた漫画のタイトルは、確かに『ユニバース・エンド』だった。


 だが、それをアスヤに教える必要はないだろう。

 未来は、分からない方が面白いのだから。



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