14 未来は分からない方が面白い
「もしもし、ああそうか、分かった。じゃあまた会場で」
言い終わるとアスヤは通話を切った。
「加古川さん、どうだったって?」
心配そうに聞くミライに、アスヤは言う。
「なんとか食い止められたみたいだ。にしては大分声が暗かったけどな。と、俺もそろそろ準備しなくちゃ」
現在時刻は十二時半。先ほど三十五番目の検索者が会場に入ったところだ。そろそろ三十六番目の検索者、つまり高瀬が現れる。
正午に近づくにつれ陽が上り、木陰に居てもじりじりと暑い。アスヤは流れる汗を拭った。
とその時、頭上からバババババという耳をつんざく音が響いた。ミライとアスヤは思わず上を向く。前にも見たヘリコプター。そしてそこから飛び降りた人物は、やはり高瀬だった。高瀬は二人の目の前でこともなげに着地した。
「よおアスヤ。お前のことだから、どうせ会場付近に身を隠して俺を止めようとしてたんだろう。回りくどいことはやめにして、どちらの正義が正しいのか、正々堂々決着をつけようじゃないか。場所を移そう。お前もヘリに乗れ」
アスヤは神妙な顔で頷き、降りてきたヘリに乗り込んだ。
ヘリの風圧に必死に耐えながら、ミライはその様子を見ていた。
ヘリは会場から少し離れた荒野の上空で止まった。高瀬が飛び降り、アスヤも続く。
二人は着地した後、少し距離を取って向き合った。
「こっちは時間が無いんだ。一発で決めさせてもらう」
高瀬は腰を落として半身になり、左手を前に突き出した。
それに応じるようにアスヤは二本の刀を鞘から抜く。
「絶対に最終回の早バレはさせない」
「お前は俺に勝てないよ、お前がカミアドを敬愛している限りな」
まず高瀬が走り出した。拳を固めながら、直線状にアスヤへと向かう。アスヤも刀を構えながら高瀬へと走り出す。
すぐにヘリからプロジェクターが下りてきた。アスヤは反射的に目を瞑る。高瀬が叫ぶ。
「今プロジェクターに移されているのは、来月公開の劇場版カミアドのリーク映像だ! 衝撃的な内容が映されているぜ。目を瞑ったって無駄だ。俺が今からその内容を読み上げるからなあ! 終わりだアスヤ! お前はカミアドという人質を前に手も足も出せない!」
「くっ……!」
「じゃあ言うぞ! まず、アマテラス佐野が三年前に倒したはずのコック
しかしアスヤは耳を塞がなかった。代わりに、刀を握る手に力を込めた。
早バレのショックにより血を吐きながらも、アスヤは進み続ける。
「なっ、止まらない!? さ、更に言うと佐野たちの宿敵イエロースプリング軍が今回はなんと味方に付くんだ!」
アスヤは更に血を吐いた。しかし耳を塞ぐ素振りは見せない。それどころか、アスヤは目をパッと見開いた。そして、早バレを背に立つ高瀬の姿をはっきりと捉えた。
「く、くそっ!
「
二人が技を出し合い、一瞬の静寂が訪れた。
そして次の瞬間、血を吹き出しながら倒れたのは高瀬だった。
「くそ……、なぜ早バレを恐れない!?」
うめく高瀬に、ふらつきながらアスヤは言う。
「怖いさ。でもそれ以上に、ここで俺が負けて、たくさんの人が悲しむ未来の方が怖かったってだけだ」
「それでもあのお前が早バレを克服できるはずが……」
「ミライの立ち向かう姿を見て勇気をもらったんだ」
高瀬は這いずりながら言う。
「俺は絶対に諦めないぞ……! 絶対に早バレをするんだ……!」
アスヤは高瀬に向かって叫ぶ。
「なぜそこまで早バレにこだわる!? 次の発売日まで頑張って生きようとか、そういうのが楽しいんだろうが! 未来は分からない方が面白いじゃないか……!」
高瀬は何も言わない。アスヤはしびれを切らして言う。
「高瀬、お前もカミアドが大好きなんだろ!? だってお前の技、佐野のライバル、ヤマタノ大和の技じゃないか!」
高瀬は笑みを浮かべる。
「ふ、そうさ。俺もカミアドが大好きだ」
「じゃあなんで早バレをするんだ! なんでこの漫画を楽しみに生きている人を踏みにじるようなことをするんだ!!」
「それはな、俺が、カミアドを楽しみに生きることができないからだよ」
アスヤの表情が固まる。
「どういうことだ……?」
高瀬は落ち着き払った声で言った。
「俺は不治の病にかかっている。俺の命はあと三日だ」
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