第8話 コンタクトウォッシュ:復活の艶と透明感
ホイール洗浄を終え、彼はホースを手に取ると、再び静かにノズルを握り直した。次はボディのプレウォッシュからだ。 ホイールでのプレウォッシュでもそうだったが、これは、ある程度洗車をする者にとって基本中の基本である。もしこれをせず洗いだしてしまうと、付着した微細なチリやホコリが傷の原因になってしまう。だからこそ、まずはこれらをしっかりと除去していく。彼は、天井部分から始まり、ボンネット、と高い所から低い所へと順番にしっかりと水を流していく。
そして、ドアやフェンダーに比べボンネットと天井部分は撥水しておらず、親水に近い状態になっていた。ワックス層の上に汚れが蓄積すれば撥水しないのは当たり前で、これから洗っていくことでワックスの艶と撥水は復活すると経験則から慌てることは無かった。
彼は、プレウォッシュの水がボディを伝って流れ落ちる様子を確認した。撥水の状態を把握することは、彼の洗車のルーティーンの重要な一部だった。一通り流し終わり、鳥糞やフロントバンパー周りの蟲の死骸などが付着していない事の確認も終え、コンタクトウォッシュへと移る。そして、いよいよボディ用のバケツにも水を張り始めた。先ほどと同様、彼はシャンプー液をバケツに注ぎ込み、勢いのある水流で一気に注水する。シャンプー液が豪快に飛び散り、薄くなりつつあった甘い香りが再び濃く広がる。グリッドガードの上で濃密に泡立てられたシャンプーは、彼の愛車を優しく洗い上げる準備を整えた。
彼は、ボディ用の大判で水分保持量の多いウォッシュパッドを泡の中に沈める。
「よしっ」
彼はウォッシュパッドを愛車のルーフに乗せる。力を込める必要はない。ただ重さを利用して滑らせていく。彼にとって、この瞬間こそが、日々の汚れから愛車を解放する至福の時間だった。泡がプレウォッシュでは落としきれなかった汚れを包み込み、ボディから浮き上がらせる。ルーフ、フロントガラス、ボンネット、サイドと上から下へと進んでいく。ウォッシュパッドを洗う面ごとに細かくバケツ内のグリッドガードの上ですすぎ、常にクリーンな泡だけで洗車を進めていく。広い面は数回に分け、パーツごとに洗浄を終えると、すぐにそのパーツを洗い流す。この手順を徹底することで、シャンプーが乾燥するのを防ぎ、付着した汚れの再固着を許さない。彼はこの丁寧な作業を繰り返し、コンタクトウォッシュを完了させた。
可能な限りの摩擦と、傷のリスクを最小限に抑える。これこそが、彼の『最高の状態』を維持するための基本となるルーティーンだった。 車全体を洗い終え彼はホースを手に持ち直す。最終確認として、彼は改めて天井部分から水をかけ、残留物が残らない様洗い流していく。そして、プレウォッシュの時親水状態になっていた天井とボンネットも、しっかり撥水が復活していた。
2週間前に施工した物は老舗が現代に送り出した高耐久ワックス、その耐久性は彼がこのワックスに出会い、すでに容器の半分以上を使用しその性能を十分に体験して来ている。
だからこそ彼は満足げに深い笑みを浮かべるのだった。
大判でフワフワの吸水力に優れたドライングタオルを手に取り、彼はルーフから一気に水分を拭き上げていく。ドアノブの裏やエンブレムの隙間といった細部の水分もしっかりと拭き取っていく。ボディ全体が拭き上げられ、曇りのない最高の艶が蘇る。それは、彼が施した天然ワックスの艶と撥水が、汚れのリセットによって最大限に引き出された証拠だった。仕上げとして、彼はガラスクリーナーとガラス専用クロスで、洗い上がった車をさらに仕上げていく。ボディは拭き上げられ、彼が施した天然ワックスの艶が戻り、ガラスも拭き上げられそこに存在しないかのような透明感を放っている。
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