第3話
王と名乗ったイケオジは威厳たっぷりに、それでいて優しさに満ち溢れたイケボで全員へと語りかけてくる。
「これは失礼しました! 皆様にやってもらいたい事とは、この国を飲み込もうとする七つのダンジョンの攻略です!」
うむ、実に良く通るいい声だ。
なんでイケメンは声もカッコいい奴が多いんだろうな。
さっきまで不審に思っていた俺ですら、既にイケオジの美声に引き込まれてしまいそうになっているから不思議だ。
「ダンジョンの攻略、これはスキルを与えられる異世界の勇者様にしか成せません! スキルを持たぬ我が国の兵士達は攻略を試みるも力及ばず、道半ばで断念せざるを得ませんでした!」
スキル? 今のところどこにもこれと言った変化は無いけど。
周りの人達も似たような事を思ってるのだろう、自身の体を改める人や、スキルとやらについて質問をし始める人があちらこちらに散見された。
「スキルとは、勇者にのみ与えられる特殊能力です! これから案内する部屋で皆様の才能が解放されます! どうぞ救国のお手伝いをされるかどうかはご自身のスキルを見てからご判断されてはいかがでしょうか?」
うん、まあ確かに自分のスキルは見てみたいな。正直この手の話は胸が踊る。
俺も人並みにファンタジー物のゲームや漫画は好きだから、もしかすればチートスキルを貰って無双からのハーレムなんて事も無きしにもあらずと期待してしまうのは仕方ないよな。
それにゴミスキルが与えられたなら日本に帰ればいい。うん、とてもいいシステムだと思う。
周囲の反応もだいたい俺と似たような感じだ、先ほどまで不安そうな色を浮かべていた斉藤さんも。
「ちょっとワクワクするね」
なんて言っている。
明日帰れるのであれば取り敢えずやってみればいい、それがこの場の総意のようだ。
これが現代日本なら胡散臭過ぎて怪しむ奴もいそうなもんだが、異世界効果すげえな。
「ご理解いただき誠に恐縮です! では皆様こちらへ!」
王の一向に引き連れられ、俺も含めた全員が大広間を後にする。
長い廊下を歩き、辿り着いたのはドーム型の大きな円い部屋だった。
その中央には巨大な女神像が据えられている。
「これが才与の女神像でございます! どうぞお一人づつ像の前にお立ちくださいませ!」
女神像の前には階段付きの台座がある。
どうやら階段を上がりそこへ立てばいいらしい。
しかしいくら異世界効果が働いているとはいえ、流石に一番最初に女神像の前に立ってやろうっていう剛の者はなかなか出てこない。
そりゃそうだ、俺だって嫌だもの。
全員が尻込みし、お先にどうぞと譲り合いの精神を発揮する中、一人声を上げる人がいた。
「じゃ、じゃあ私いきます!」
その声の主はまさかの斉藤さんだった。
「私ね、実はこういうの大好物なの」
彼女はそう俺に耳打ちすると、人を割って前に歩み出る。
すごい勇気だ、称賛に値するって。
地味顔仲間だと勝手に親近感を湧かせていたら思わぬ伏兵だよ、紛れもない主人公ムーブ、なんだろうこの途轍もない敗北感は。
それでも俺は彼女の勇姿を見届ける為にその背中を追った。
「ではこちらからお上がりください」
王の従者の手招きで、斉藤さんは目の前の階段を一段一段登っていく。
登りきった彼女が台座の中央に立つと、女神像から柔かい紫色の光が降り注がれる。
儀式はすぐに終わった、時間にして一分弱といったくらいだ。
「才与の儀は以上でございます。どうぞお気をつけてお降りください」
その言葉に斉藤さんは階段を降りるが、あまりの呆気なさに拍子抜けした顔で女神像を振り返りながら二度見三度見している。
因みに俺もそんな顔をしていた。
というかこの場の日本人全員がそんな顔をしていたかもしれない。それくらい女神像様の演出はささやかなものだったんだ。
「お名前をお聞かせ頂けますか?」
従者の問いに「斉藤アキです」と彼女が答えると、従者は革張りのノートのようなものに何かを書き記していた。
その後の流れはスムーズだった。斉藤さんの無事を確認した人々は安心し、とくに躊躇することなく台座へと上がっていく。
そして光を浴び、階段を降りると名前を従者に告げ戻ってくるの繰り返し。
取り敢えず解った事は二つ。
一つは日本人の人数、俺を含めてちょうど百人だ。
そしてもう一つは女神から注がれる光は紫色だけではないこと。
百人で全ての色が発光されたのかは解らないが確認できたのは六色。
紫、緑、青、赤、黄、白だ。
ちなみに俺の色は……。
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