第7話 朝の30分と、コーヒーの湯気
朝。
アラームは3回目のスヌーズが鳴っていた。
寝癖のままベッドから起き上がると、机の上には昨夜のままのカップと文庫本。
電車まであと30分。
「……ま、走ればなんとかなるか」
コーヒーメーカーは壊れかけで、
スイッチを押しても、なかなか動かない。
だが今日は――本当に、今日に限って――スイッチを押しただけで、すっと湯気が立ち上がった。
冷めたトーストを口にくわえ、パンくずをつけたまま玄関を飛び出す。
シャツのボタンを留め、ネクタイを片手で締めながら、
時計を横目で確認する。
遅刻ではない。
でも、いつもギリギリ。
その“余白のなさ”が、彼にはちょうどよかった。
駅へ向かう道すがら、
ふと、一人の女性の姿が見えた。
イヤホンを耳に差し、
スマホの画面をスワイプする手元。
彼は一瞬目で追うだけで通り過ぎた。
だが交差点まで来たとき、
信号の向こうに、再びその女性の姿が見えた。
今度は白い紙カップを手に、
腕時計の画面を見つめている。
風が吹き、髪がほんの少し揺れた。
それを見た瞬間、
彼の足は自然に一歩、前へ出ていた。
理由なんてない。
ただ――
何かが、ほんの少し変わりそうな気がした。
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