村人 クリスとリリー

@kazue771

第1話

「ふっ、今日もいい汗かくべ」

「クリス、準備は良いかしら」

頭に麦わら帽子を被り、かっぽう着姿の妻・リリーは、両手を夫・クリスへ向け、魔法を唱えた。

短い詠唱を幾つか唱え、クリスの身体が眩い光に包まれる。

間もなくして、クリスとリリーの頭の中に、唱えた魔法の効果が言葉として響き渡る。


脚力強化+1,素早さ+1,体力+1,筋肉増量+1,刃物強化+……


「リリーの付与魔法は今日も完璧だべなぁ~」

にっと満点の笑顔で、構えた鍬を振り上げる。

瞬間。

「うぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」

クリスは、振り上げた鍬を地面に突き刺し、振り上げ、また突き刺した。

常人とは比べようもないスピードで、クリス夫婦の畑が耕されていく。

叫び声と共に耕されていく畑と夫の仕事姿を、リリーはうっとりとした表情で見つめた。

「す、素敵ぃっ。さすが私の旦那様だぁ~」

ほぼ付与した強化魔法のお陰なのだが、リリー曰く。

魔法の恩恵を受けやすい体質の旦那あってこそと、常に夫をよいしょする。

一般的にそんな体質など存在しないのだが、クリスに惚れまくっているリリーの目は曇っていた。

恋は盲目とかいうやつである。

通常3日は掛かる畑の耕起も、クリス夫婦にかかれば半日で終了する。

ふぃ~

近くの大木の根元にゴザを敷き、木陰に流れる風を感じながら、手にした冷たい茶を口に流し込む。

「労働した後の茶は格別じゃ~」

「ですわね~」

茶を飲んで、再びほぅっと間の抜けた言葉を口にする。

「クリス、ちょっと早いけどお昼にしましょう。今日は、おいなりさんを作ってきたんです」

「わしの大好物だなぁ。これを食べたらまた色々頑張れそうな気がするべ」

決して一般のご家庭には見せてはならない表現を、右手を使って表現したクリスは「今晩どう?」と妻・リリー向かってウインクする。

ポッと顔を赤らめ、両手で頬を抑えるリリー。

すっと片手を上げ、クリスに向かってグッドポーズ。

つまりOKである。

クリス家のベッドと、リリーが歓喜の悲鳴を上げるのである。

「そうと決まれば夜に備えて食うもの食っとかんとの~」

おいなりさんを摘まんでひょいと持ち上げ、クリスはリリーの口元へ持っていく。

「リリーも沢山食べて体力つけとかんと、今夜は寝かせんぞ~」

にひひと笑うクリス。

ポッと頬を赤らめるリリー。

馬鹿夫婦、ここに極めりである。

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