【番外集】はたはた鍋の〆の雑炊

はた

『マルゲリータに愛を込めて:こぼれ話』

#001『無知とは愚かなり。by東の国から』

 ※この作品は番外編です。本編を読まれてから閲覧することをお勧めします。



   ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇  



 旅を続けるピザ職人ケルト一行。彼らの新たな味の探求の旅の末、東方の国に差し掛かっていた。



「綺麗な街ねー。ゴミは落ちてないし、道路も舗装されて、建物も個性的!!これは普通に観光したいね。ケルト君」



 ケルトの師匠の娘にして恋人のアンが、かなりこの国にハマっている。ここは鎖国を経た後、敗戦を味わい、そこから経済大国にまで成り上がったという。



 ここなら新たなピザのアイディアが眠っているかも知れない。一行のテンションもあがっている。



「ケルト、この店入ろうぜ。何か良い香りしてるから!!」

「これは何て読むお店なのかしら。この国は言葉が難しいわ」



 声をかけたのは、彼らの警備を任されている剣士レイジーとシャロン。彼らもかなりの食通でケルトも頼りにしている。



 ケルトは香ばしい香りを放つ大衆店の引き戸を開けた。



「いらっしゃいやせー!!こちらの席にどうぞー!!」



 高級店でもないのに席に通される店は、これまでの旅では少なかった。これは好感が持てる。



「これは……鉄板?」



 テーブルには大きな鉄板が備え付けられている。ここで何か焼くのだろうか。ここでケルトの眉間にシワが寄る。



「む……むむっ!?」

「どうしたの、ケルト君。何か閃いたの!?」



 ケルトは凄腕のピザ職人。この旅でピザのヒントを思いついたら、これまでも斬新で美味なピザを作ってきた。



「この鉄板で小麦粉の生地を焼いて具材とソースを乗せれば……何か新たなヒントを掴めるかもしれない……」



「お待たせしました。お客様はこの店……この国は、初めてですか?だったら、まずは私が焼いて見せますね」

「へ?」



 すると店員は小麦粉を溶いた生地を鉄板に丸く広げた。生地には野菜と海産物が混ぜられている。この時点でケルト一行は嫌な予感がした。すると店員が、



「じゃあ返しますねー」

「返す?……何を?」


 焼き目の付いた生地をへらでひっくり返し、更に焼く。



「な……何だって!?」

「なんて器用な!!成程、これならムラなく中心まで焼けるわ」



 ピザ窯は閉鎖された空間だ。しかもあらかじめソースが塗ってあるため、ケルトには両面焼く発想がなかった。



「じゃあソース塗りますねー」

「何と!?こ、これじゃ丸っきり……ケルトの予想と……」



 そのソースはとろりとした濃い黒ともいえるもの。気が付けば記事には豚バラ肉も乗っている。それを新鮮な卵に載せさらに熱を加える。それをまたもや、へらで切り分ける。



「こちらお好み焼きになります。鉄板お熱くなっておりますのでお気をつけて下さいね。あ、いらっしゃいやせー」



 ケルト一行は呆気に取られてしまった。



「オコノミヤキ……」

「……ケルト君。気を落とさないで」

「……あったね。もう」

「まあ、いいや。熱いうちに早く食べようぜ!!」



 そのお好み焼きの味は香ばしく、ソースは辛すぎず甘みすら感じられ、具材のハーモニーはシンプルを極めたマルゲリータとはまた別の味の極みを感じた。



 ちなみに彼らは鉄板ソース焼きそばやたこ焼きを注文。その後も様々なグルメを目の当たりにし、ケルトは自分の未熟さを身に染みて改めて思い知った。



 そして、十二分にオオサカの食を堪能、研究した。これは真似せねばと思ったケルトだったが、この街の派手さにはちょっと距離を置きたいと思ったという。



 こうして、ケルト一行の新たなピザへの探求の旅は続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る