潮界

SHIROKI

浜辺のメモ

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【発見記録】


発見日時:令和5年11月20日 午前6時40分頃

発見場所:浜岬地区 東側砂浜(満潮線より約3m陸側)

発見者:浜岬漁業組合 組合員

状態:折りたたまれた状態で砂の上に置かれていた


特記事項:

・紙は湿っていない(前夜より降雨、砂浜全体が湿潤)

・インクの滲みなし

・砂の付着なし

・まるで「今、ここに置かれたばかり」のような状態


しかし周囲に人影なし。

足跡もなし。



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[メモの内容]

もう三日目


波が来ない

来ているのに来ていない


───


浜が

のび


───


地図が違う

持ってきた地図と

今いる場所の地図が


───


※※※至急※※※

戻れ

いや違う

戻るな

来るな


───


午後は

ダメ

午後の海は


───


杭が濡れてる

誰も

いない

誰も


───


数えた

観測点は9つ

でもメンバーは


───


[ここから文字が乱れる]


かいがんせんが

かいがん線が

海───


───がどこ?


もと

もどれ

ない


───


きづいて

早く

早く気づいて


───



ここは

浜岬じゃない


いや

浜岬だ


でも

「どの」浜岬?



───



[裏面、鉛筆の走り書き]


これを読んでいるあなたへ


潮が引いても

行くな


満ちてきたら

すぐ戻れ


でも

「戻る」場所が

同じだと思うな



───



[メモの最下部、ボールペンで強く書かれている]



!!観測は中止

!!絶対に

!!───



[インクが掠れて判読不能]



───だって

───は海の

───じゃなくて

海が───



[以下空白]



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【メモの分析】


用紙:一般的なノート用紙(B5サイズ)

筆記具:ボールペン(黒・青)、鉛筆

筆跡:複数人によるものと推定されるが、鑑定不能

日付:記載なし


紙質検査の結果:

・製造年推定:2020年代(現行品)

・紙の劣化度:ほぼ新品

・しかし、繊維の一部に海水の痕跡(塩分濃度:通常の23%)


矛盾点:

・海水の痕跡があるのに、紙は湿っていない

・塩分濃度が異常に低い(海水なのに)

・繊維分析の結果、「淡水と海水の中間」のような水に浸かった痕跡



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【発見者の証言】


「いつもの場所に、落ちていた。

いや、"落ちていた"んじゃなくて、"置いてあった"みたいな感じだった。


妙だったのは、周りの砂が全部濡れてるのに、

そのメモだけ乾いてたこと。雨が上がってから置かれたんじゃないのかって?拾った当日も雨だったよ。分かるか?濡れてなかったんだよ……。


それと……手に取ったとき、紙が冷たかった。

濡れてないのに、海の冷たさがあった」



追加証言:

「メモを拾った場所、あそこは普段、満潮でも水が来ない場所なんだ。


でも、砂が濡れていた。波の跡もあった。


潮位計は、満潮じゃなかったって言ってるのに」



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【後日談】


このメモは、○○県建設局に提出された。


担当者が内容を確認したところ、

「調査予定地に関する注意喚起として有用」と判断され、

地理開発調査株式会社に情報提供された。


しかし、提供から二日後、

建設局の担当者は以下のように証言している。


「メモ? ……ああ、確かに受け取りましたが、内容は覚えていません。というか、本当にメモを見たのかどうかも、自信がなくて。」


提出されたメモの現物は、現在、所在不明。


ファイルには、メモのコピーが保管されているが、

コピーを取った記録がない。


さらに、コピーの内容は、

閲覧するたびに微妙に変化していると報告されている。

閲覧注意。



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[ファイルの最終ページに、手書きで追記されている]



※このメモは、誰が書いたものか不明

※このメモは、いつ書かれたものか不明

※このメモは、どこで書かれたものか不明


※あるいは、

※まだ書かれていないのかもしれない、情報が帰結しません



──────────────────────────


地理開発調査株式会社 宛てに転送された記録あり

ただし転送ログには送信者が記録されていない

(送信日時:令和5年11月31日 00:02)

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